Wake an answer

第1章 葛葉麗一【ブラックナイト3-4】

麗一はスーパーボールすくいの手伝いだった。水に濡れたりするのが嫌なので本当はお面売り場に行きたかったが、自分は派遣されている立場だからわがままは言えなかったのでそのまま従う。
その百貨店のイベントに亀山が孫娘と遊びに来たそうなのだ。その時にたまたま麗一を見かけた亀山は、孫娘の手前、麗一の外見と名札の名前だけ記憶しておき、後日ブラックナイトにてその少年を探せと言ってきたそうなのだ。

「特徴的な名前だったから聞いた時はビックリしたよ。まぁ、亀山さんは“くずは”と間違えて言っていたけどね」
「よく間違われます」
「俺も君の事は気になっていたから丸幸に連絡して調べさせてもらったんだ」

最初は敬語を使っていたのに、亀山が麗一を見かけた経緯を話し終わった後の萌木のしゃべり方はずいぶんフランクになっていた。自分より年上なんだろうから、それは構わないが。

「案の定俺だったわけですか」
「そう」
「それで、本題は?」
「いまここで話しても構わないけど、麗一君は大丈夫なの?」

そう言われて時計を見ると、もう少しで11時を回るところだ。ここのホームでは、そこまで厳しく罰則を設けてはいないが、さすがに見ず知らずの人と長電話をしているのを養護員は心配そうに物陰から見ている。

「いえ、今はあまり時間が。11時半には消灯なので」
「そうだな。学生さんだしね。えーと…そしたらまた改めてかけ直すよ」
「携帯にお願い出来ますか? 学校は16時半には出られると思うんで」
「わかった。バイトは何時から? 」
「18時です。だから余裕あるんで」

向こう側でメモとペンが用意される音が聞こえる。「どうぞ」と言われた後で、麗一は12桁の数字を伝えた。

「それじゃあ電話かけてくれてありがとう。明日、また連絡入れるから」
「はい」

そういって受話器を静かに置く。
養護員が声をかけようとしたが、麗一は気がつかないフリをして2階の自分の部屋へ駆け上がってしまった。急いで走ったのとは、また別種の心臓の疼きが、麗一の体全体を支配していた。

+

今日一日中、授業が全く身に入らなかった。それどころか友人達が話す言葉も右から左に抜けてしまい返事も上の空だ。6時限目が終わり、教室で何度も携帯を開いたり閉じたりを繰り返したりしていると、どこかに遊びに行っていた田中が教室を覗き込み麗一へ声をかける。

「おい、麗!」
「ん?」
「帰るぞ」
「うん。田中、今日バイトは?」
「あるよ。だから駅まで一緒に行くべよ」
「うん…。いや、いいや。今日、俺用事あるから」
「用事? バイト以外に?」
「うん」

田中も様子がおかしいと感じたけれど、自分だって彼女が出来たりすれば麗一の事など放っておく事もある。もしかしたら麗一だって無きにしも非ずだ。だから深くは突っ込まない方が良いと思い、田中は「わかった」とだけ言って教室を後にした。
ドアを閉めた後、麗一の携帯が鳴ったのが聞こえる。小窓から顔を覗かせると、静かに電話に出ている麗一の後姿だけが見えた。


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