Wake an answer

第1章 葛葉麗一【はじまり1-3】

焼けただれた古びた建物とは打って変わって、目に痛いぐらい差し込む光、光、また光。
だけど、光は帯びていても全体の雰囲気は怪しく、言葉で表現するならば“ドロリ”としたような艶かしさだった。
そして、その輝かしい場所は無限とも思える程広くて、きっと紹介するんなら『東京ドーム何個分』となるだろう。

「目、痛…」

元々あまり色素が濃くない麗一は強い光や、急激な明るさに弱い。肌も女子より白くて、羨ましがられ事もままあった。
麗一は目をこすりシパシパとまばたきをして目を光に慣らす。慣れた所で辺りを見回すと、一瞬理解が出来ず、もう一度目をこする。何ていう事だろうか、歩く人々の大半が裸なのだ。

「あ…え?」

確かに麗一は裕福な生活はしてこなかった。小学生の頃は、年上から譲ってもらった服ばかりを着ていたし、高校に入ってからは、学校とバイトと施設の往復で、学生服とバイトのユニフォームだけで、オシャレな服はあまり着ていなかったけれど、裸で生活をした事は無かった。
いや、どう考えたってこの先進国の国日本で、なかなか裸で生活をするっていうのはおかしい話だと麗一は思う。
でも、目の前の人々は(それこそ老若男女!) 裸でいる事が普通なのだ。
麗一は目の前に広がる異様な光景に、ただ口を開けたままにするしかなかった。
だって、裸が普通という顔で歩き、笑い、挨拶をしている。たまに服を着ている人物が目に留まったが、その姿が滑稽のように感じるぐらい裸の人々で埋め尽くされていたのである。

「何だよここ…地下帝国?何かの新しい世界?」

麗一がいる場所は、少し上から広場を見渡せる通りのような場所で、その広場をぐるりと囲むように柵に覆われていた。ちょうど学校の体育館の巨大版のような雰囲気。
麗一はその柵に手をついて体を乗り出して、広がる異様な光景を瞬きも忘れて見入った。

「あ、あの人美人」

時間としては数十分ぐらいだろうか。次第に状況に慣れていき、若い麗一に好奇心が沸いてくる。
あの広場にいる人々はどんな言葉を喋っているのだろう?
どんな話題で盛り上がっているのだろう?
それより、本当にここは日本なのか?
そんな疑問がムクムクと沸いてきて、麗一は疑問を解消しようと決意した。さすがにここで服を脱いで裸にはなれないけど、何人か服を着た人も混ざっているんだ。この人数の中に入り込んだってバレやしないだろう。
キョロキョロと辺りを見回して、降りる場所を探す。右も左も、薄ぼんやりとしたライトがついているだけで、最奥に至っては真っ暗な洞窟のようだった。

足を踏み出す─。

とりあえず左から。
麗一はいつも歩き出す時は左足から出すからだ。

数歩。

本当に足を二歩ぐらい動かした、その時だった。
麗一の頭上から、真っ赤なランプが光り、けたたましく警告音が響いた。すぐに対象者は自分自身だって気がついた。どう考えてもこの中じゃ異色すぎるからだ。慌てて、今いる場所から体を翻して元来た扉へ向かった。扉を思い切りよく引いて、階段を駆け上がろうとすると、背後から勢い良く肩を掴まれた。

「いっ…て!」
「おとなしくしろ!怪我はさせない!」
「はな…せ!」
「オーナー!捕獲いたしました。まだ若い少年…14、5歳ぐらいです」
『ガガッ…ピー、いって、…つか、まき…で連れて…してもええで。フフ……ガガッ』

リーダー格の男が持つトランシーバーから聞こえる奇妙な電子音と、女性の声。

「フザけんなっ! 俺はもう17歳だ!!」
「年齢の事など今はは気にはしていられません。失礼!」

その男の声が耳に入ったかと思うと、みぞおちの辺りに熱いものが走った。それと同時に鈍い音が腹の辺りから聞こえる。
ケンカは多少した事があったけど、腕っぷしが弱い麗一は、実際に拳を奮った事も、殴られた事も無かった。しょっちゅう問題を起こして、そこいらの不良とやり合っていた丈一郎の影でニヤニヤ笑いながら見ているタイプ。
だから、ドラマや格闘技番組で見るような“堕ちる”っていうのは経験した事がない。初めての経験だ。意外とゆっくりと時間手流れていくものだと感じる…。

「そんなでけぇ拳…俺の体折れちまうじゃ…ねぇ……か」

薄れていく意識の中、麗一は今までに感じたこともなかった恐怖心とよくわからない疎外感に支配されていた。


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