◆アカーシャの扉〜6〜◆ ―短編―

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 ―6―  

『驚くべき奴の正体』

それからというもの僕は、折に触れこの夢を
何度となく脳内で反芻してみては
細部を想い出そうと必死になっていた。

ただの夢にしては…あまりにも現実味を帯びていて
普通の記憶の様に感じるというのはなんなのだろう?
いくら夢を鮮明に見るとは言っても何かが違う…そう何かが。

その「何か」が解らずなんだか不快なので、
原因を追及したかったのだろう。
無理矢理記憶を引っ張り出そうとしてみたり
逆に自然に任せてみたりと
あらゆる手段を講じてみるのだが
忘れていた事をふとした拍子に
想い出したりするのと同じような想い出し方が
一番自然で尚かつ、きちんと想い出せる様だった。
(当たり前と言えばそれまでだが。)

…この間にもこの夢の中の外人の僕に関する
色々の夢をみてはいるのだけれど
話しているとキリがないので今は割愛する。

そて時は流れてそれから数年後のこと。

高校生になった僕は1人の悪友を得ることとなるのだが、
更に高校を卒業して数年経った最近になって
ソイツが僕にこう言ったのである。

「そう言えばサァ。」
僕は顔を上げてヤツの顔をまともに見返した後、
「うん」
とだけ答えて、飲んでいたソーダ水の方に目を戻した。

「随分前…そうだなぁ、もう君と会って
スグくらいの頃に見た夢を想いだしてねぇ…
ホラ、幼なじみのミヤ、居るじゃん?
ミヤと一緒にサ、でっかいデパート?じゃない…
なんだろう?
大きなホテルみたいなトコロのロビーなのかなぁ
広場なのかなぁ…うろ覚えだけど…
ソコで上を見上げてるんだよ…
そんでね、
自分等の目の前には大きな水槽があって…
水槽っていうのかなぁ、
兎に角ため池のような大きな水の何かがあってネ…
そんなこんなしてるウチ、
上の階が火事になってるんだよ。
強盗みたいのが押し入ったらしいコトを
何故かミヤも自分も知ってるんだなぁ。
ミヤと自分はどうも仕事でソコへ行ってたらしいんだけど…
何故か君が上の階に取り残されてるって
2人で慌てふためいてるんだ。
で、バルコニーみたいな…ベランダみたいなトコから
君が顔を覗かせるんだよね。
アッ、やっぱり取り残されてる、何やってるんだアイツは…って
必死に身振り手振りで…その水槽へ飛び込め…って怒鳴るのサ。
そうすると…暫くして目の前で急に水しぶきが上がって
…いつの間にか君が男の子と老人を連れて
そこに飛び込んでいたんだ。

妙な夢だろう?

タマにふ、と想い出すんだよ何の事もないときにね。」

―…正直ぞっとしたのは言うまでもない。

実際僕はこの話を誰にもした事がなかったのだ。
言ったトコロでタダの夢といわれるのが関の山だし、
緊張感の溢れる洋モノのアクション映画さながらではありながらも
所詮はタダの夢と扱われるのは目に見えていた。
それ以上の何かを期待するワケでもなく
言えば妄想的な狂言師か
創作がちょっと上手なヤツと
言われるだけの事だと、そう思っていた。

しかしコイツのその言葉を聞いて
僕がタダの妄想狂で無いことは明白となった。
不明瞭だった点と点が今くっきりとした
一本の線で繋がったのである。

そしてその時コイツが目指してたのは
驚くなかれ。そう、まさに
言うまでもなくライター…エイブだったのである。

そうか、あの男…エイブは…君だったのか。
言われてみればそっくりそのままの君だよ
ただあの夢の中よりも一回り小さいけどね。

ハハハ、符号点の多さを
専門家ならどのようにみるのだろう?
ただの偶然の一致と一笑に付すのだろうか?

でも
重要なのは
ソコじゃない。

僕自身の確証なのだ。

…が、ヒトツ胸のつかえがとれたトコロで
また新たな疑問が雲のように
わき出てくるのである。


夢の中の僕が愛してた人がいる。

その人は、




…―ダレ?--------





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