◆アカーシャの扉〜5〜◆ ―短編―

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 ―5―  

『水が繋ぐ時の輪』

その時、階下に目をやると
十数人の人溜まりのなかで
幼い2人子供達の祖母と祖父が何かを叫んでいる。
そのスグ近くにエイブと彼の親友が
一生懸命僕にジェスチャーで
必死に何かを伝えようと、手招きをしている。
良かった、エイブ、無事だったんだな。
一瞬ホッとしたが、安心している場合じゃない。

友人が必死に何かを訴えるその仕草に僕は目線を落とした。

そこには大きな木。さらにその下には

プール…?

そうだ!此処はちょっとした高級ホテルの一室だったっけ。

プールの真上に行くには
火の出ている右隣の部屋の前を
通り抜けなければならない…

走れ…!よそ見をせずに走れ!!

身をかがめるようにして
熱さをます緋色の壁の長い道のりを
無理矢理に走り抜けた。
右目に一瞬写ったうつぶせに倒れる数人の
人影は幻だったのか?

息が熱いのか。
それとも
空気が熱いのか。

なにもかもが蜃気楼のように
揺れるせいなのか?

プールの真上まできた僕は
その柵の上によじ登り
子供達をシッカリ抱えたまま



プール目がけて




飛び込んだ。





その時右足の甲の部分を
なにか熱い物が切り裂いたような

…痛みが走った。

地面との高さも距離感もよく解らなくなり
墜ちていく感覚が非道くゆっくり感じられた。
見上げた空に輝いていた白金の太陽が
僕の瞳の奥底を貫いた。
そのままゆっくり目を下にやると
水面が近づいたのが見えたので
深い瞬きのように目を閉じた。

水しぶきとその音…
そして僕等の沈む音が
全身の神経に伝わった。

浮上しようとして目をあけたら
いつの間にか
良く見慣れた自分のウチの鼻先で
家を背にして水浸しで立っていた。

そこでは母がいつものように
花に水をやっていて
僕にむかってホースを向けていた。

「あら、目が覚めるかとおもったから
…ゴメンナサイ。
もぅ起きないとダメなのよ。」

…その声は現実と微妙に相まって
「夢の中の母」と「現実の上の母」からの
同時の警告であることを理解したのは

ベットからようやく体を起こした
五分後のことであった。

夢で怪我をした右足の甲をみたら、
全く付けた記憶のない
古い傷跡が、赤くうっすらと線を引いていた。

気味が悪いと感じたのは言うまでもない。
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