◆アカーシャの扉〜4〜◆ ―短編―

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 ―4―  

『火の中で迫られる決断』

瞼をゆっくり開ける間隔で
本人にとっては
一刹那の暗闇から再び気が付いたときは
愛らしい子供2人と
特別に用意されたらしい部屋の中の
日溜まりでボンヤリとしていた。

そうだ…
僕はこの子達をしってる…

御世話になってるヒトの子供で…

クリスティンとアンドリューと言うんだよ…確か。

クリスティンの薄い金の巻き毛と
綺麗な薄水色のドレスが愛らしさを
いっそう引き立ててる。
綺麗な紐か何かを一生懸命に結んでいる。
アンドリューは彼女よりも濃いブロンド。
少し重そうな紺色の上等な洋服で
オモチャの兵隊を手に持って僕に笑いかける。

僕も笑い返すと彼の渡す兵隊を手に取った

…その時だった。

廊下へ続く扉の向こう側が急に騒がしくなる。
―なにがおこった…?

奇妙な気配が穏やかな空間を少しずつ浸食していく。
僕は獣の様に顔を歪め、周囲の物音に耳をそばだてた。
…―そのぞっとするような気配と感覚が僕の背筋を走る。
声に出して言う暇もなく反射的に、
何故だか僕はとっさに子供達を腕に抱え込んで身をかがめた。

それとほぼ同時に、僕等を、
鈍いような鋭いような、重いよう早いような
『音』が矢継ぎ早に襲った。
まさか―…銃声?本当に近い場所だ。
なんだか振動もあったような気がする。
何かが―…爆発したのか??
ワケが解らないまま、緊張だけが僕等を支配した。

クリスティンは恐怖から叫んだと思う。
アンドリューは目を見開いて身をすくめたままだった。

僕は2人をテーブルの下に押し込むと
慌てて扉に駆け寄り、
ドアノブに手をかけようとして、一度引っ込めた…。

僕の耳に飛び込んできたのは・何?
罵声?何人もの走り去る音???

心臓が ゴトンゴトンと妙な動きをして
体中から妙な汗が流れ出た。

隣の部屋では確かこの子達の父親含め…
なんだかのお偉方が集まってるんじゃぁなかったか…?
僕等の部屋を通り越して隣だけに
なだれ込んでいった様子から察するに、
あらかじめ内情を知っていたヤツの仕業?

知っているといえば…!
僕の友人で仕事仲間のエイブはどうしただろう?

…そうだ、アイツはフリーのライターで…
新聞社に今日のこの集会の内容を
いち早く売り込もうとしていたんだよな…
その取材許可の交渉をしたいんだといって…
僕はエイブをこの子達の父親に紹介して…
その後2人を残してこの子達を預かって…

エイブエイブ…

嗚呼、どうしただろう?!

目には見えずとも何か不吉な事が間違いなく
起こってるであろう隣室で
騒ぎに巻き込まれているのではないのか??

だとしたら何て事だ…

だからといってこのまま動かないで
待っているなんて出来ない…

混乱した頭のまま、
音を立てないようにノブを廻し扉を開けた…
カチャリ…というその音が妙に響いたような
気がするその先…

そこに人影は、ない…が…

僕の目に飛び込んできたのは踊り狂う炎と、
周りの燃えるモノ全てを巻き込んで広がっていく
火の舞踏の輪だった。

無理だ…もう隣の部屋の状況を確認する所じゃない。
火が広がりすぎている。

不可思議な熱さを孕んだ空気が
僕の気持ちを萎えさせる。

ココは危険だ…逃げるんだ…!!!

訳の分からないまま 窓の方へ走る。
全ての動きがのろく感じられた。

白く薄づくりのカーテンを引き剥がすようにしてどかし
大きな窓を開ける。
右隣の部屋が激しく燃えていた。

僕は小さな2人を無理矢理に抱えて
渡りになっているベランダへでた…

そこで事実を把握し愕然とする。
此処は三階じゃないか…

廊下は火の海。

その時二階から轟音が響く。
二階からの出火だと気が付くのは
そう遅くなかった。

―逃げなければ、―逃げなければ、―逃げなければ、

僕の頭の中は
もうその一言で埋め尽くされていた。
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