◆アカーシャの扉〜3〜◆ ―短編―

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 ―3―  



『見知らぬ見知った場所
 見知らぬ見知った君と僕』



周囲を見回すと確かに見覚えがあるのに
自分の知っている場所じゃない。
少し古びてはいるが白く落ち着いた壁の色。
深いバーガンディカラーの窓枠、
自分の脇にあるドアも同じ色だ。

間違いない。
此処は僕の仕事場。

…馬鹿な。

だからさっきから何度も言うように
僕はたかだか15歳になったばかりのガキで、
どう頑張って、背伸びをしてみたところで

こんな…

こんな?

―身長も高くなってる…

足元の床がなんだか遠い。
履いた事のない豊かな茶色をたたえた革靴が
しっくり来てるのが恐ろしく感じられた

その瞬間。

「オイ、ナニをボンヤリしてるんだよ?」

ふいに背中からかかった声に振り向くと
帽子を右手で取りながら1人の男が立っている。
黒い瞳と少し浅黒い肌が印象的だった。

「ああ…エイブか…脅かさないでくれ」

疑問も躊躇も感じないで僕はすんなり
その男に向かって答え、何気なくガラス窓に目をやった。

―外人―

そこに映る姿を見てはじめに思いついた言葉がソレ。
見開いた目があからさまに奇妙を物語る。
明らかに僕の知ってる僕じゃない。
でも…なんて似ていやがるんだ。
自分の肌と髪と目の色が更に薄くなったようなヤツが
ソコにビックリ顔でいやがるんだ。

…オマエ誰なんだよ?

そんな疑問を胸の中でガラス窓にぶつけた。
「あのな、脅かすつもりなんて毛頭ねぇよ
それよりも仕事だ仕事…付き合ってくれるんだろ?」
「ん、んん。」
狼狽え気味の僕に対してシャキシャキとソイツは言葉を続ける。
「なんだ…気のない返事しやがって!
どうしてもオマエに手伝って貰わなきゃ、
あの中には入れないんだぜ?
まさか今更いやだなんていわねぇよなぁ?」
「もちろんだよ」
…と言い終わるか終わらないかのウチに
ソイツ…エイブという男は僕の手を
グングンとひっぱって廊下に出ていった。

階段は木製。
手すりの装飾が結構シンプルだけど
気に入ってるんだ。

手をひかれたまま表通りにでると…


…珍しく晴れてるじゃないか…


「眩しい」と感じた瞬間。
翳した右手の落とした影が
目に被り深く浅く闇をつくると
僕の記憶はそこで寸断してしまった。
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