それ故に、未来を受け止めるが如く 18

モクジモドルススム
「遅刻したら裕樹に悪いからな」
「そうだ。それでもうひとつ思い出した。ルームシェアの話!」
「あー。俺も言おうと思ってたんだよ」

「ゴメン!!」

謝ったのは二人同時だった。互いに不思議そうに顔を見つめる。

「辰巳からどうぞ」
「いや、蓮爾から」
「うん、ルームシェアに良さげな物件、先に契約されちまったんだ」
「マジか! 俺の方は…その室長補佐の話が流れちまって」

情けなさそうにポリポリと頭を掻いて、蓮爾の言葉を待つ。

「何でだよ」
「いや、不況でさ。俺が行く予定だった工場のレーンがストップしちまって。建て直しにベテランの人が行く事になったんだ。俺はしばらく本社勤めってわけ」
「そっか。いや、ちょうどいいってわけじゃないけど、クビ切られないだけでもマシだろ」
「だな」
「さ、食べたら行こうぜ。席は早いもん勝ちだし」
「ああ、わかった。ま、早いもん勝ちって程、混まないのが実情だけどな」
「ははは」

二人が、笑いながら友人同士の他愛の無い時間を過ごす。その家の前では、さっきの黒いスーツの男が中を確認するように辰巳の家の前をウロついた。しばらくすると、男はスーツの内ポケットから奇妙な機械を取り出し電源を入れる。

「私だ。現在code:#87YQIR4W。該当者古谷辰巳の家の前にいる」
「何をお調べいたしましょう」
「ズレが生じたようだ」
「未来経路のズレですね」
「87年と4ヶ月後は救われた。該当者は危機的人物真田蓮爾との深い関わりは阻止されたようだ。上への報告と共に、未来経路書への書き換えを頼む」
「わかりました」
「私は次のズレの修復へと向う」

男はそう言うと、奇妙な端末を閉じて家の前を去った。

+

「そういえば国道で工事があるみたいだな」
「そうそう、渋滞に巻き込まれなかったか?」
「いや、オレがバスに乗った時はまだ始まってなかったから平気だったけど」
「そっか。お袋が言ってたけど、5分ズレると大渋滞になるらしいぜ」
「ふーん、早めに出て良かったよ。お前を起こす所かオレも遅刻しちまう」

木々の間を光が零れ抜ける公園の街路樹を抜け、ホールに隣接する広場を歩く。外観が確認出来る距離になった所で、二人は後輩の姿に気がついた。

「せんぱーい!」
「裕樹」

確か主催者の一人だと言うのに呑気にウロウロとしているのは、裕樹が怠け者なのではなく、事実暇なレクリエーションだから、開場まで余裕があるからだ。

「暇そうだな。まぁ、観客なんて来ても保護者ぐらいだろうし」
「俺、寝ちゃうかも」
「先輩ひどいッスよ!」
「おーい! 一応先輩らしくしとけよ」
「ははは、悪ぃ」

アクビをする辰巳を、肘で突いて諌めた。
平和なゆっくりとした時間が公園に流れる。

世界は救われた。
否、本当は世界が滅びるなど誰も想像しないのかもしれない。事実、あるのかさえも確認は出来ない。だから、この話はあくまで“仮説”としておこう。絶対的にどこかの誰かに関わる何かが、ほんの少しズレる事で、次々と世界に変化を与えるという仮説だ。だが、普通に暮らし関係の無さそうな私達でも可能性は無いとは言いきれない。

そう、例えば今この話を読むか、読まないか…でも。


モクジモドルススム
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