それ故に、未来を受け止めるが如く 17

モクジモドルススム
ピピピピ…
ピピピピ…
規則的な電子音が枕元で鳴る。

「う〜ん…もう少し…」

ピピピピ…
返事は変わらない電子音。

「うるさいっ! 可愛くないっ!!」

可愛げが無いのでは無い。その音しか出せないのだ。

プルルルルル…
可愛くない音を止めようと手を伸ばすと、今度は違う電子音が鳴る。
たまらず青年はベッドから体を起こすと、枕元に置かれた携帯電話が鳴りながら落ちてきた。

「おわっ!」

慌てて携帯を開いて通話ボタンを押すと、静かな声が一言だけ聞こえる。

「起きろ! 辰巳」
「蓮爾ぃ!」
「なんだそのニヤけた声は」
「来てくれて嬉しいわけ。お前の方がずっと可愛いわ」
「可愛いって幼馴染の男捕まえて何を言いやがる。外にいるぞ」
「え? マジか」

中途半端に閉められたカーテンを勢いよく開いて外を覗くと、上を向いた蓮爾が少し怒った顔でこちらを見ていた。

「迎え来てくれたのか!?」
「まぁね。朝飯食ってないだろ。買ってきたから入れろよ」
「へへへ、いたれりつくせりで」

まだ鳴り続ける目覚まし時計を止めて、階段を下りる。母親はすでに出かけたらしく階下はシンと静まり返っていた。玄関の鍵を開けて、蓮爾を呼ぶと外を気にしながら門をくぐる。

「ん? どうした?」
「いや、黒いスーツの男がこっちを見てたから」
「日曜の住宅街じゃ珍しいな。なんだろ」
「まぁ、大丈夫だとは思うけど。ホレ、朝飯」
「サンキュ。いや、迎えに来てくれて助かったよ。目覚まし時計じゃ、あのまま二度寝してたぜ」
「まぁ、仕事で疲れてんだろーなーと思って気を遣ってみたんだ」
「持つべきものは親友だねぇ」

話しながら家の中へと入り、蓮爾がソファへ座ると辰巳はインスタントコーヒーを手早く入れる。お湯を注して、テーブルへ置き、砂糖やミルクを手渡した。

「お茶、よかったのに」
「んなわけ行かないよ。寝坊の世界からすくってくれた救世主様なんだから」
「なんだそりゃ」

熱いコーヒーをすすりながら蓮爾はソファで伸びをしてくつろぐ。その傍で辰巳は着替えながらパンを食べ始めた。その姿を見届けると蓮爾はポツリと話し始めた。

「嫌な夢を見た気がする」
「ん? 嫌な夢?」
「ああ、なんか救世主様って言葉でフと思い出したような…」
「へー。どっかに魔王でも倒しに行ったかぁ?」
「うーん…覚えてない。夢だったのか現実だったのかも」
「ふぅん?」
「何ていうのかな。思い出そうとすれば思い出せるんだけど、思い出さない方がいい事ってあるじゃないか」
「…俺はないけど」
「お前は繊細な心を持ち合わせていないからだよっ!」
「んだとー! …と、こんな事してる場合じゃない。時間、時間!」

辰巳が指差した壁にかけられた時計は八時半を指している。歩いて20分ぐらいの多目的ホールに行くにはもう出ないといけないぐらいの時間だ。
モクジモドルススム
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