それ故に、未来を受け止めるが如く 15

モクジモドルススム
「心の中で決めなかったか? 今日じゃなく、数ヶ月前にもしかしたら異動になる話をした時に、大学にも近くなるから俺とルームシェアをしたいって言っていただろ?」
「言っていた。それが?」
「今日の俺の寝坊で、気持ちが固まらなかったか? シェアしようっていう」
「確かに。辰巳とは兄弟以上に兄弟みたいに育った馴染みだからな。だからそれが何だって言うんだ?」
「ルームシェアする事で、何がどう影響するのかはわからない。でも…元々のお前の能力の事とか考えると、未来に何かがあるのは必然かもしれない」
「オレのせいだっていうのか? 何か何かってハッキリしない事で話をするなよ! 」
「要約すると、お前が俺にとって他の何者とも比べようも無い絶対的な存在って事なんだよ! 原因は俺だと思う。それに対して、絶対的な存在のお前が強く関わった事が絶対的なズレになって未来を変えてしまったんだ」

辰巳の顔で蓮爾は察した。本当は真の原因は話したくなかったのだ。お互いが原因なのは明らかだ。その要因を深めるのが友情だなんて認識もしたくなかったし、させたくもなかったのだ。しかし何かがおかしい。高杉は『これから未来が変えられる』と言っていた。ならば、騙されているのかもしれない。

「待て、辰巳。違う、違うんだ」
「何が違う?」
「変わるんじゃない。変えられようとしてるんだ。この大きな違い、わかるか?」
「言葉としてはわかる」
「お前、騙されてるんだよ。あのスーツの男に」
「例えばそうだとしても、もうこの状況どうにもならないだろ! 扉の外を見てみろよ!」

蓮爾は視線を扉の外へとやる。例のスーツの男が見えた。
男は見た事も無いメディアと携帯電話のようなものを使い、応援を呼んでいるようだ。

「逃げ…られそうもないな」
「だろ」
「ならば決着の時って訳か? 辰巳、お前がそんな機転の利かない男だと思わなかったよ。逃げてみたら逃げられるかもしれないじゃないか」
「いや…お前を始末すると決めた。俺は決めたんだ!」

改めて目と目を合わせジリジリと少しずつ間合いを調整し、一足一刀よりも少し近づく。剣道の場合では、辰巳は先に仕掛けたほうが勝ちだと思い込む癖があった。一方の蓮爾は先に飛び込めば負けと考えていた。それが通用するかはわからないが、お互いの癖は知り尽くしている。
だが、今は練習試合などではない。真剣勝負なわけだし、焦りも手伝って、蓮爾はいつもの癖を変えてみようと細身の体を使って辰巳のほうに飛び込んでいった。

「ああああ!」

剣道では判定となる箇所を的確に打てば有効打となる。
それが真剣ではどうだろうか。打てば致命傷となる怪我をするに違いない。元は剣を鍛えるための武道だと言われても、どのぐらいの力を使えばいいのか想像すらつかなかった。
化学の力で自分専用に計算して作られた刀は、本物とは違って無駄な重さも無く扱いやすい。それが余計に戦い方の感覚を鈍らせる。
剣道はスポーツの一貫だと捉えていた彼らには一番有効である方法がわからない。だからこそ蓮爾はどうにも出来ずに辰巳の懐へと飛び込んだのだ。

「んぐっ…っぅあ!!」
「え…?」

刀を通して伝わる鈍い重さ。力が抜け切らない手は、緩む事無くズブズブと押し進んでいく。その度に辰巳が唸るように声を上げた。

「辰巳? う、嘘だろ?」

蓮爾は呆然とした。

そう、辰巳は全く手も出さず防御もせずに、飛び込んでくる蓮爾の刀を右胴で受け止めたのだ。
『死んでくれ』などという挑発の言葉を発し、その気にさせて…だ。
モクジモドルススム
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