それ故に、未来を受け止めるが如く 14
幼馴染の姿と、その笑顔に安心しすぎてしまって、自分が置かれている状況を蓮爾はすっかり忘れていた。今から数秒後に辰巳の口から開かれる言葉がハッキリと、クリアに頭へ響く。
「た…たつ…そんなやめてくれよ」
聞きたくないと後ずさりをし、蓮爾は耳を塞ぐ。
だが、その行動は遅かった。
「蓮爾…死んでくれ」
辰巳の手に力が入る。握られている小さなものが、瞬時に大きな刀へと変化した。
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胃の付近をギュウッと掴まれているような気持ち悪さ。ドクン、ドクンと血液は体中を暴れ回っているようだ。更に、腰から下はむず痒いような感じがする。わかる。膝が震えているのだ。
まさかこんな形で人生に終止符を打つとは─。
時の中に取り残されたかのように静止をし続ける両者は同じ様にそう思ったかもしれない。
照明と差し込む光の乱反射を受けて鈍く光る日本刀を模した武器。いかにもこれから血を吸いたいと願うような輝きを見せていた。
「辰巳、もっとよく考えろ。オレが殺されようと構わない。だけど…後味は悪くないか?」
頭より高い上段の位置で構えた蓮爾が問う。
そして、蓮爾と対面し、正統派の中段構えの状態で返答する辰巳。
「なぁ蓮爾? 戦国…いや、今現在地球の裏側で俺たちはテレビでしか知らないような国で、未だに戦争は行われている。その人達は後味なんて考えるのかな?」
「確かにそうかもしれない。だけど違う! 落ち着け辰巳! 本当にいいのか?」
良いわけなどない。辰巳にだってわかっている。このまま戦えば相手の体は傷がつく。致命傷になるまでにはどれだけ強く切り付けなければいけないか検討もつかない。
「はぁ、はぁ」
「…ふぅ」
見つめあう時間が異常に長く感じる。体は火照り、喉はカラカラに渇いていた。
深く息をしているとか、手が痺れ始めているとかそういう物理的な感覚は無くなりつつある。それなのに冷たい汗が額をつたうのだけは感じられる。本当の緊張とはこの事かと蓮爾は人生の終りに改めて知る。
「ズレ…だそうだ」
「ズレ?」
同じ姿勢のまま辰巳は話しかけた。
同じく姿勢を変えず蓮爾は返答する。
「ほんの一瞬のズレが世界をガラリと変えるんだと。俺と一緒に走ってきたスーツの男がいただろ? そいつが言っていた」
「それじゃあこんなところで俺達が話しているだけでも未来は変わっちまうんじゃないのか?」
「いや、絶対的なズレと相対的なズレとあるらしい」
「絶対的? それはどういう事だ? いや、言葉の意味はわかる。じゃなくてどの部分が絶対的だったんだ?」
「俺の寝坊」
「は?」
「今日、俺が寝坊しなければよかったんだと」
「寝坊たって、お前常習犯じゃないか。それが何で今日? 今更何の冗談だよ」
あまりにも想定外の事だったので、蓮爾は思わず強い口調になる。
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