それ故に、未来を受け止めるが如く 13

モクジモドルススム
一方の辰巳も、『自分の物覚えの悪さは愛嬌』とまで言っていたのに、さっきスーツの男に見せられたシナリオは完璧に頭に入っていた。右へ行き、まっすぐ進み…などという細かい事など、一度見せられただけではすっぽ抜けてしまいそうだが、これがいわゆる火事場の何とかというものなのか。的確に進んでいく。

「辰巳君、いいぞ。そのまま正面玄関に進むんだ」
「ああ」

だが、正面玄関に蓮爾の姿が見えたことを確認すると、辰巳は走るスピードを少し上げた。
グンと体を前へ前へと進めるようにし、スーツの男を少し引き離す。
イケる…。辰巳は足をもう少し大きく開き、スーツの男と自分との感覚を三人分引き離した所で、蓮爾に向かい大声で叫んだ。

「蓮爾! 左へ走れー!!」

辰巳の突然の指示に固まる蓮爾。

「!?」

しかしそれは辰巳の中では予想内の事。大げさなジェスチャーで、蓮爾から見て左方向へ手を振る。

「いいから! 左だ! 俺も追う!!」
「わかった」
「辰巳君! 何を考えているんだ! シナリオと違うぞ!! 止まれー!」

計画には無い事に焦りを感じたスーツの男は、辰巳へ静止するよう叫ぶ。
しかしそれに返答はせずに走り続け、もう一度蓮爾へと叫ぶ。

「蓮爾ィー! 扉を閉めろ!」
「え…あ…これか?」

ドアストッパーを足で蹴り、ドアノブに手をかけると、ズシリと重いガラスの扉を押した。
右を振り向くと、同じように辰巳も反対側の扉を閉めていた。蓮爾の視線に気がついたのか、辰巳はコクリと頷く。

「両扉閉めたら、真ん中の扉に急いで来てくれ。そこも閉めたいんだ」
「わかった。あの男が何か叫んでいるけど?」

スーツの男が走ってくる。蓮爾の言う通り、何かを叫んでいるようだが、扉を閉めている為言葉は届かない。

「後で説明する。ちょっと面倒くさいことが起きた」
「右に同じく」
「蓮爾もか?」
「うん、そう。よし、真ん中の扉だな」
「こっちもオッケー。いいか? 扉を閉めるぞ」

真ん中の両扉を閉めたと同時にスーツの男が到着する。よく聞こえないが、『裏切りだ』とか『君が悲惨な目に遭うんだぞ』とか今の行為を後悔させるような言葉を並べ立てている。そんなスーツの男に対して辰巳は答えを返した。

「すまないな。本当のヒーローは自分で道を切り開くもんなんだ。言われた通りの行動じゃ格好悪いからな」
「確かに。でも辰巳がヒーローか。本当に務まるのか?」

二人は皮肉って笑う。

「うん…確かにな」

その蓮爾の皮肉に、いつもなら食って掛かって返すのだが、今日の辰巳は違っていた。

「何だよ。お前らしくない」
「蓮爾、俺達何でこんな風になっちゃったんだろう? たった数十分の間なのに」
「さぁ…まさか急に未来を託されるだなんてな」
「ああ。でも、俺達だからなのかな? 元剣道部だったから? だからこそ、それ故に受け止めなきゃならないのかな?」
「だったら世界中の剣道部員が対象になるだろ」

とここまで話して、蓮爾は自分の手に握られている刀の存在を思い出した。これで目の前の親友を傷つけようとしていたなんて恐ろしい。蓮爾はバツが悪くなり、構えを解く。

「蓮爾…」
「辰巳…悪ぃ、お前を信用してなかったわけじゃないんだ」
「わかってる。わかってるさ。お前の事だ。俺の考えていることなんて手に取るようにわかるだろ?」
「え…?」

一瞬、冷たい空気が流れた気がした。
モクジモドルススム
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