それ故に、未来を受け止めるが如く 10

モクジモドルススム
「いやだ! いやだいやだ!!! 出来るわけがないっ!」

年甲斐も無く公園で辰巳は大声を上げる。近くにいた鳩はその声に驚き、砂埃を舞い上げながら空へと飛び上がった。しかし、隣でその声を聞いている黒いスーツの男は冷静に感情もないような顔で聞いている。

「友人を! それも幼馴染を殺せとアンタは言うのか! わかるか? 親友だぞ! ズレの原因だって友人であるから故ってどういう事なんだよ! なぁ!?」

男を殴ろうと拳に力が入る。
だが、そんな事に意味がないと感じ、息を強く吐きながら辰巳はベンチへと腰かけた。
そうして体の力が抜けた瞬間だった。手に貼り付いていた刀が、硬質な音を立てて下へと落ちる。

「あ…」
「説明の必要は無くなったな。そう、力を抜いて今は必要ないと考えてやればその刀は手から剥がれる。あれだけ強く貼り付いていたが、握っていた手は痛くも痒くもないだろ?」
「確かに」
「それが未来の力だ。化学のな」

“未来の”と強調される部分に嫌味を感じる。辰巳は男へと何か言いたげに強く視線を送った。

「多分、言いたい事は沢山あるだろう。君の気持ちはわからないでもない。だが、討伐に参加すると決めたのは辰巳君だろ?」
「それは、その…」

後先を考えずにゲーム感覚で話を進めてしまったことに辰巳は後悔してもしきれなかった。冷や汗とも違う嫌な汗が額と背中を伝う。

「友人という概念はいますぐここで捨て去ってくれ」
「捨てられるわけないだろ!」

互いに声が大きくなっていく。傍目からみたら、いい大人が何をしているのかと思われるだろう。しかし今はそんな事を考えている余裕がないぐらい感情が昂ぶっていた。

「だが、そうしないと辛いのはアンタだ。主役は君、古谷辰巳なんだ!」
「主役って、主役ってなんなんだよ!」

普通に生活をして、毎日同じ繰り返しをするこれといって波風もない人生のはずだった。
小学校低学年ぐらいだったろうか、ヒーローに憧れた事がある。5つの色に分かれた戦隊ヒーローのレッド役は自分がやりたくて、いつも主役の役目を奪う同級生とモメた事もあった。
だが自分は主役ではなく、社会の歯車に飲み込まれたひとつの部品と悟ったのは情けないかな高校卒業をして社会の枠組みに入ってからだった。
それなのに今現在、なりたくもない主役という座を任されようとしている。出来るならば代わってほしい。だが、そんな相手はいそうもない。そして、すぐに逃げ腰になりそうな弱い自分にも苛立ちを覚える。
モクジモドルススム
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