それ故に、未来を受け止めるが如く 9

モクジモドルススム
どうやら未来でも自分のような人達の立場は変わらないようだ。その事実に蓮爾は肩を落とす。いくら隠しているとはいえ、蓮爾はこの力があるせいで奇異な目で見られる事もあった。もっと普通の人間でいたいと悩んだ時期があったのは否めない。
サイキック能力の全てが悪いかと言ったらそれも違う。同じくそれは化学者達にも言える。
だからこそ、その二つが融和して住みやすい世界が訪れはしないものかと日々、サイコメトラー能力者である蓮爾は、ぼんやりと考えていた。

「一時期はもてはやされた時もあったようですが、現在の内戦が起こる前、化学でも自然的な現象や、不可思議な現象は一切信じない一部の営利目的集団『World Paradaigm Science/<ワールド・パラダイム・サイエンス>』が横行しました」
「どの時代にもそういのはいるんだね」
「ええ、それによりサイキック能力者やアニミズム精神は邪道とされ、考え方に賛同や協力していた化学者達もろとも迫害を受けています」
「それで過去を変えようというわけだ」
「というより、今、変えられようとしているんです」
「変えられている?」

意外だった─。
そして意外性に驚いた。よく過去を変えてはいけないという話を聞く。それを踏まえつつ、それでも住みづらい世界を変えたいという、高杉個人のお願いごとの類だと蓮爾は思っていたからだ。

「はい。私も混乱したままここへ来ているのですが、今、私が住む世界の内戦は、未来が変えられた事によるものだという事は聞いています。」
「ん…と、倒さなければならない相手は辰巳…。という事は、辰巳が未来を変えた原因というわけなの?」
「原因の中核とは正確には言えません。けれど、彼が関わるどこかで歴史のズレを起こそうとしているのは確かです」
「歴史のズレ…? じゃあオレは誰かが変えようとしている未来を止めようとしているというわけか」
「はい。そういう事になります」
「そっか。未来で迫害を受ける能力者のオレと、その親友の辰巳…」
「ええ」
「うん…なんとなくわかってきた」

全てに合点が行く気がした。抜けていたパズルにピースが当てはまっていくような。そんな感覚。自分が日々ぼんやりと考えていた事はただの妄想ではなかったのかもしれない。
しかし、まさかその世界を創り上げる為には、自らが半犠牲になるとは皮肉なものだ。

「ただ言えるのは、確かな実力があなた方にあるという事」
「もうひとつ質問。ここで戦ったら、その二つが争わなく歩み寄る世界は来るのかな?」
「恐らく…絶対にとは約束出来ませんが、今僕が存在する世界だけは確実に変えられると思います! そう思わなきゃ…こんな事…」

少し意味深に感じる高杉の言葉尻を、蓮爾は打ち切る

「わかった。高杉君の気持ちもわかったし、オレ自身の考えもまとまった」
「蓮爾さん…」

蓮爾は話しながら握り続けていた指を高杉から離す。
瞬間、もう一度目の奥に見えたのは互いが朱に染まる姿─。
どうやら血を見るのは明らかなようだ。せめて傷つくのは自分だけというにはいかないものかと蓮爾は思う。

「そろそろ時間だね。行こう、高杉君」

手の中の刀を確認する。強く握らなければ小さいままの刀は、本当にただのオモチャにしか見えない。それをすぐに取り出せるよう、胸ポケットにそっとしまった。

「(コイツを血で染めるなんて! 絶対に回避してやる…!)」

冷静さが乱れはじめた蓮爾は、これから迫る危機に震える唇を強く噛むと、そう強く心に決めた。
モクジモドルススム
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