それ故に、未来を受け止めるが如く 7

モクジモドルススム
「詳しい話が出来なくてすみません。ただ、スパイはあなたの体格に近い人を選びましたので、使い勝手は悪くないはずです」

青年は床に落ちた武器を拾う。彼が手にした途端、約70センチ近くはあった刀が、初めに蓮爾が手にしたときと同じ大きさへと変化した。

「ホラ、元の大きさに戻ったでしょう? 僕では適合しないんです」
「そのようだね。で、その適合する武器を使ってどうしろと?」
「本題です。いいですか? あなたはこれを使って、これから攻め入る敵を倒さなければなりません。心配ありません、軍隊などではなく相手はあなたと同じ年齢の男です。そいつさえ倒してしまえば世界は、87年と4ヶ月後は平和になるのです」
「何の笑い話だよ…フッ、フ…ハハハ」

人は思考が停止すると、感情がおかしくなるのかもしれない。
話している意味の半分の意味もわからなく、手にはおかしなものを持たされ、状況としては不快になる要素しかない。それなのに蓮爾の口からは笑いが零れた。

「大丈夫ですか?」
「なわけないだろ…」
「…ですよね。ですが、こうしてもいられません。正規時間あと6分と48秒で相手はあの真ん中の扉から攻め入ってきます。会場では多くの観客が…その、僕目当てで入ってきますから、無駄な血を見ない為にも僕が観客の気を惹く囮になります」

“僕目当て”という言葉でフと気がつく。裕樹が気に入らないと言っていた芸能人がこのイベントにいると言っていた。

「君が例の芸能人の高杉君なんだ」
「ええ、詳しくは未来から潜り込んだのでこの世界には存在していませんが…。まぁ、その下りはよいとして、あなたはロビーへ出るように左側の扉へ走りこんで下さい」
「やりたくないと言ったら?」
「残念ですが、あなたが血を見る事になります」

静かだけど乱暴すぎる言葉に蓮爾は少し驚いた顔で高杉の顔を見る。
なるほど。確かに芸能人に化けているだけあって、甘いマスクをしていた。
しかしその顔はただ綺麗なだけではなく、目には真剣に人と話すだけの力があり、握られた拳は力が入りすぎ、血色が無くなっている。

「脅しとしては幼稚な類とは思うけど、突然やってきておかしな話を理路整然とするんだから多分本当なんだろうね…。わかった。こうしよう。オレは君に協力しても構わない」
「ほ、本当ですか!?」

高杉の顔が一瞬明るくなる。
が、蓮爾は高杉の前へ人差し指を出して、それを制止した。

「待って。条件がある」
「条件ですか?」
「今すぐにやってくれというのでは状況がわからなさすぎる。オレも全力で協力しよう。だから、君も全力でもう少し時間操作というのをやって、時間を作った上で話せる限りの状況を教えてくれないか? それとも、その無駄な時間を過ごした事で未来が変わる…わけは無いよな?」
「わ…かりました。確かにそうですね。人に頼むだけではいけない…僕も全力で頑張ってみます。時間の経過は…そうですね。ほんの少しならば未来への影響はそれほど無いと思いますし」

そのセリフで蓮爾は高杉を信用することにした。
それさえ呑めないようならばただの脅しか冷やかしに過ぎない。相手の頼みごとで痛みを伴うようならば、自分も多少なりとも痛みを伴わなければならないはずだ。八十何年後の未来だか何かはわからないが、同じ日本人の姓を名乗っている同種族ならば尚更だと蓮爾は思ったのだ。

「それでは行きます…」

高杉は席から立ち上がると、体を強張らせ震えるようにして力を振り絞った。
モクジモドルススム
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