それ故に、未来を受け止めるが如く 5

モクジモドルススム
「(小さいのに刀の形してんだ)」

昔、京都の修学旅行で買った日本刀のオモチャのもっともっと小さい版みたいな形。まさかこれで本当に相手を討つなんて眉唾物だ。せめてもう少し大きければ、部屋のオブジェぐらいにはなっただろうに、こんなもので戦ったって相手に与えられるダメージなんて擦り傷ぐらいがせいぜいだろう。
手の中にある役にたちそうもない武器をよく眺めてみようと辰巳は顔の前へと持ってくる。その姿があまりにもよく出来ているので、ちょうど剣を構える格好と同じように腕を前へと突き出した時だった。指先から腕を通り、全体へ電気質の痺れが辰巳を襲った。



「うわッ…ッ!」
「!? 作動させたのか?」
「別に、何か特別な事をした訳じゃ…あ…」

さっきまで手の中に納まっていた刀は、高々と天を仰ぐように立っていた。
派手な装飾は無いが、堂々としたその形状からは雄々しさと強さを感じさせる。

「きっと、武器が自ら覚醒したのだろう」
「覚醒!? まさか! 生きているわけじゃあるまいに」
「言ったろ。君の筋力や思考を計算して作られていると。」
「はぁ、計算…ね(別に武器の説明なんていらないけど…)」

オモチャからまさに武器の姿へと変わった刀を恐る恐る近づけてまじまじと眺めてみる。
柄を力強く握り、鞘を横へとスライドさせる。中からは何とも表現の出来ない輝きをした刃が垣間見えた。辰巳はその輝きにゾッとしたものを背中に感じ、慌てて元の鞘へと納めた。

「しかし、粗方のベースはあるとしてもそれだけの武器を作れるとは素晴らしいな」
「別に俺が作った訳じゃ…」
「いや、まぁ詳しい説明や武器のうんちくは事が終わったらするとして。君の身体能力などを考慮して作られたものという事は元々の身体能力が優れていないとそう言った武器は作れないんだ。だから君自身が作ったと言っても過言ではない」

感情の無さそうな顔が綻ぶ。詳しい話は後にすると言っていた筈が、武器の事を語り始めたら、まるで自分の事のように興奮して話しているのが感じられた。男はその後も新人時代、自分が武器を生成した時は辰巳と同じような武器を作り同期や士官を驚かせた話などを続ける。
つまらなさそうに男の話を受け流していると、辰巳は刀を握っていた右手に違和感を感じた。それもその筈。刀をベンチの上に置こうとしたら手から外れないのだ。グーにして握っていた手を離しても、その手を振ってもビクともしない。辰巳は焦って何度も手を振ってもがいた。

「ちょっ…これ外れないんですけど!」
「む…話がズレたな。失礼。ん? あぁそれか。それの取り外し方は後で教える」

元の冷静な男に戻る。こんな時に冷静にならないでくれと焦るときの心情はそんなものなのか、辰巳は男に恨めしさを感じた。
男の言う事が信じられず、刀を引っ張ったり振ったりしているとベンチに置かれた後このメディアから短い電子音が聞こえる。

「検索が出来たようだな」
「何のだよ」
「討伐する相手だ。顔を見ておくか?」
「ああ。そうか。嫌だけど確認しておかないとな」
「確かにもうすぐ嫌でも見てもらう事になるからな」

辰巳は手から剥がす事を諦め、刀を貼り付けたまま男の元へと帰る。
横から覗こうと思ったが、角度によってはただの真っ黒にしか見えない画面だ。携帯電話の画面に貼り付ける覗き見防止のシートと同じようなものだろうか。
きちんと見る為に、男の顔へ自分の顔を近づけてメディアの画面を覗き込む。
そこには読めない文字も、奇天烈な格好をした女性もいない。

「これだ。まぁ、見覚えあるから確認の必要もないとは思うが」
「……あ、あ…ぁ。…なん」

若く中性的な顔立ち。

少し伏し目がちで流れる黒い髪が特徴的な…



そう、画面に映っていたのは辰巳の親友である真田蓮爾の姿だった─。

モクジモドルススム
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