それ故に、未来を受け止めるが如く 4

モクジモドルススム
「一瞬の…ズレ…?」
「パン、せっかく買ったんだからどうぞ」
「あ、はい」

辰巳はコンビニから謎の男を追いかけ、若葉ホールに隣接している公園にいた。ベンチに腰掛け、促がされるまま購入したパンを食べる。園内には老人が散歩をし、辰巳達の足元には鳩がエサを求めて首を振りながら歩く。なんてことない普通の公園で彼等も周囲からしてみれば、ただ会話している青年達にしか見えない。強いて言えば、男の姿は黒尽くめのスーツなのでそこが奇妙といえば奇妙だが。

「さて、そのズレだが。私達は一分一秒を生きている。例えば…」

男は無表情で足を高く上げると、勢いよくダンッ! と地面へ下ろした。
衝撃で数メートル先で地面をつついていた鳩が驚き、上空へと羽ばたく。周囲には埃が舞い、辰巳は思わず顔を避けた。

「うわっ…!」
「この行為をやるかやらないかで、数十年、数百年の未来が変わるとしたら?」
「え?」
「え? と思うだろ。無理はない。だが、それが事実なんだ。どこでその軸がズレたのかは現在調査中なのだが、どこかでズレが生じたらしくてな。87年と4ヶ月後には世界が滅亡してしまう」
「世界が?」
「そう世界だ。君はその世界滅亡を防ぐためのキーマンだ。だが、滅亡を防ぐには最悪の事態を迎えることも覚悟していてほしい」
「最悪のって…」
「君、剣の腕前は学生時代にやっていた剣道のみかね? 他に剣を使った事は?」
「は? 剣って…ゲームとかで出てくるアレですか?」
「そうとも言う。その表情では使った事は無いようだね」

男は、ポケットから小さなケースを取り出す。携帯ゲームと似た形のケースを開くと、上側には液晶のような画面、下にはよくわからない穴が開いていた。
指で触れるだけで画面に電源が入り、見た事もない文字が瞬時に羅列する。

「何ですか? 新しいメディア?」
「いいや、型は新しくない方だ。組合から至急されるものだからな」
「(なんか話がズレているような…)はぁ」

聞いた事もないような電子音が男の端末から鳴ったと思ったら、画面には若い女性が映し出された。女性はそれこそSF映画に出てくるようないでたちで、そのセンスはハッキリいって理解し難いと言える。

「私だ」
『何をお調べしましょう?』
「武器の適合を」
「かしこまりました」
「あの…Wi-Fi通信か何かですか?」
「さぁ、ワイ何とかではないが、通信なのは確かだ。えーと…これを持って、そう、ここに親指を置いて合図があったらグッと力を入れてくれ」
「は、はぁ」
「set. 測定可能」
「ホラ!」
「はっ…はい」

謎の男の言いなりのまま辰巳は親指にグッと力を入れる。妙な震動が指先から腕を通り全身に感じられた。

「う…気持ちワル…」
「力を抜かないで」

数十秒で端末から終了の音が鳴ると同時に画面に女性の姿が再び映し出された。

『結果が出ました。MAI数値はレベル8以上です』
「ありがとう。では武器は…そうだな、#4を転送してくれ」
『すぐに送ります』

通信は切れて、女性は画面から消えた。
聞きなれない単語と、知らない男女のやり取りに状況が飲み込めないまま、辰巳は端末を手にしていると今度は下側に設置されていた穴が震動を始める。

「ちょっ…と、何か…コレ」
「武器の転送だ。すぐ完了する」
「あの! 俺、状況が全く飲み込めないし、第一友人が待っているので早く向こうへ行きたいんですけど」

何となく流されたままになっていた状況を打破しようと大きな声を出して辰巳は訴えた。

「ああ、ホラ完了した」
「聞いてるんですか!?」

もう少し強い声で訴えてみたが、男は構わず話を続ける。

「君にこれを託そう。君の筋力に合わせて選ばれた武器だ。名前は好きにつけていい」

男はやっと辰巳の方へ顔を上げたかと思うと、手の平に納まるような小さな何かを差し出した。

「これ…は?」
「武器だ。これを使って我等が求める相手を消してほしい」
「消すって」
「武器の使い方を説明するぞ」
「消すって、殺すって事ですよね?」
「感情的に言えばそうなるな。しかし、私達にとっては今後の世界を平和にしていく為には仕方がない犠牲なんだ」
「そんな…そんな事、俺には関係ない!」
「関係ある事だ。もう一度言う! 君の行動ひとつで、87年と4ヶ月後の未来が滅びるか、否かが決定する」

突然普通の青年に叩きつけられ担う事になった未来。
理解しようたって容易に出来るものではない。

「そんな重要な役目…出来るわけ…」
「これから室長補佐になるのに?」
「!? 何故それを?」
「気に障ったら失礼。少しだけ身辺調査をさせて頂いたんでね」

話が摩り替わるかもしれないが、確かにそうなのだ。重要な役目から逃げていたら、いつまでたっても同じ場所で同じ賃金でいなければならないかもしれない。それならば、慣れた場所からの甘えを捨てて、飛び出してみるのもヒトツかもしれない。

「同じことだ。明日すぐに変わらなくても、君のおかげで徐々に良い未来に変わっていくのならば良い事だとは思わないか? たとえるならば環境問題もそうだろう?」
「確かに…言っていることはわかります」
「ならば手を貸してほしい。というより君がやってくれないと、88年後に用意した君の胸像も消えてしまう。」
「俺の胸像?」
「そう、ちょうど今日世界を救ったヒーロー古谷辰巳が討伐した記念日のだ。いや、胸像どころではない。この世界もどうなっているか…」
「胸像って言われても微妙だけど、世界がどうとか言われると」
「そうだろう? 何もしないで何も出来ないで終ってしまっていいのか?」
「……う」

見る事も出来ない未来の話など、先物で取引をするようなものだ。
だが、使えない男扱いされるのも癪だ。自分は物事を決定出来なくて流されていくような腑抜けではない。終着の無い思いが錯綜する。

「…とりあえず…もう一度、どういう状況なのかっていうのと、消さなければいけない相手を教えてくれ」
「やる気になってくれたか?」
「いや、とりあえず最終確認」
「私は決定しか聞かない。武器は君の手の中にある。相手を消す為へのサポートは万全にする。早くしてくれ。時間が迫っている」
「サポート…ね。わかった。それならば消すべき相手の顔を確認させてくれ。この辺りは人が多い。対象を間違えたら大惨事だ。それもサポートの一部だろ?」
「そうだな。間違えた人物を消した事で未来に変更があってもこちらも困る」

それについては男も理解が早かった。例のメディアを取り出し、画面を指で触れて操作をする。辰巳には読むことが出来ない文字が素早く送られていく。きっとどこかに親となるコンピュータがあり、そこから読み取っているのだろう。
待っている時間が異常に長く感じられ、手持ち無沙汰の辰巳は手の中の武器というものを見てみた。


モクジモドルススム
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