FLYING SHOES 6

ススムモクジモドル
「お願いします先生! どうか家には言わないで下さい」
「うーん…しかし、相手さんの怪我の度合いにもよるだろ」

翌日、二人は学校の生徒指導室にいた。商店街での争いの最中、たまたま商店街を見回りしていた教師に見つかり要教育的指導となってしまったのだ。

「別にあたしは紗姫を変質者から守ろうとしただけだもん」
「だからと言って、飛び掛って鞄で人を殴っていいわけないだろ!」
「じゃあ黙って変質者に襲われろって言うんですか!?」
「そういう事を言っているんじゃない! だいたいなぁ、小森がいると騒動が起きるって有名なんだよ」
「はあぁぁ!? がっぺムカつく! 人気がある証拠ですぅ」
「先生、水音! もうやめてよ〜」

今にも泣き出しそうな声で紗姫が止めに入るが、二人の耳には届かず言い争いが続いている。たまたまズッコケた事で飛ばしてしまった靴ひとつで、こんな展開になってしまい混乱しているのは紗姫本人なのだ。

「とりあえず灰島」
「は…はい」
「お ま え は、普段の真面目さに免じて今回の件はイエローカードにしておく。…が、こーもーりぃーお前はどうするかぁ」
「先生さぁ、もっと視野を広く持った方がいいよ」
「だから水音もやめなって…あ!」
「どうした!?」

言い合いをしている水音と教師だったが、紗姫の声で瞬間声がハモる。案外仲が良い表れかもしれない。
所で紗姫が言葉を止めて叫んだのは、鞄のフロントポケットに入れてあった携帯が振るえたからだった。

「ちょっとすみません」
「お前、学校では携帯電話は禁止だぞ!」
「今日だけは許して下さい。昨日、靴をぶつけてしまった人から、無事かどうか連絡がある予定だったので」

着信が切れてはいけないと、普段の紗姫ではあり得ない水音並みの早口で先生の忠告を制止すると、二人に背を向けて軽く深呼吸をして電話へと出た。

「も…もしもし」
『やぁ! スイートマイハニー』

昨日よりも数段と明るい(軽い)声で翔の声が聞こえる。その声にいち早く反応したのは水音の方だった。

「おい! もう一度そのかぼちゃ頭叩いてやろうか!」
「水音、ちょっと黙ってて。瓜生さん、あの、私あなたのハニーじゃないんで」
『予行練習さ。昨日はすまなかったね』

予行練習と言われ、ほんの少しだけ心が揺れるた気がする。何しろ相手は紗姫のタイプの顔。その顔で言われているのかと思うと、嬉しくならないはずがない。

「いえ、私の方こそ靴をぶつけてしまって…。お怪我はありませんか?」
『ああ、鞄で殴られたたんこぶの方がヒドイぐらいさ』
「えっ…どうしよう」
『いやいや、私もお友達に誤解されるような行動をしてしまったのが悪いからね。お互い様って事で』
「すみません。ありがとうございます」

ひどい怪我が無いというだけでも安心し、紗姫は胸を撫で下ろす。後の課題は学校の処分だけだ。

『所で、灰島くん』
「はい」
『今度、うちへ遊びに来てはくれないだろうか?』
「え? 瓜生さんのご自宅にですか?」
『もし心配ならお友達もご一緒に。私は仕事が土・日・祝日と休みなので学生の君達と予定は会うと思うんだけど』

返答に悩んでいると、水音が「なになになに? 紗姫、何だって?」と口を出してきたので、その内容を説明した。

「オッケーて言っちゃいなよ。私はバイトのシフト変更してもらうから」
「そう…じゃ、じゃあ」
『それじゃあ、今週の土曜日に昨日の場所で待っているよ』
「は、はい。では、また」

電話を切って恐る恐る後ろを向くと、先生と水音が目を輝かせて話を待っている。そのギラついた目に驚いて、紗姫は身を丸めて二人へと背中を向けてしまった。

「また小森が茶々を入れていたけど、相手さんの怪我は平気なんだな」
「はい。大丈夫だそうです。怒ってもいなかったし」
「それで? 自宅へ行く時は何着てく? 駅前のマルコウん中にACTIVショップ出来たらしいから見に行かない?」
「小森! お前はややこしくなるから一旦黙っていなさい!」
「はぁーい」
「それでは、相手のお宅に言ったら、担任からもうちの生徒が申し訳なかったと伝えてくれよ。とりあえず相手さんが無事でお互いに話がついたみたいだから、今回は家庭には連絡しないでおくから」
「わかりました。色々すみません」
「小森は?」
「あ、はい。すみません」
「ったく、お前は気持ちがこもっていないんだよ。まぁ、いいもう帰りなさい」

一応、普段の紗姫の真面目さに免じて、家庭に連絡はされずに注意程度で済んだが、とんでもない数日間となってしまった。ある意味青春の1ページに追加されるエッセンスとしては最強の出来事になったのは間違いではない。
モクジモドルススム
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