FLYING SHOES 7

ススム│モクジモドル
あれから数年後─。
紗姫は公園にいた。4歳になる息子と共に。
今日は久々に親友の水音が遊びに来る。穏やかな午後の日差しを浴びながら、公園のベンチへ腰かけていると背後から突如声をかけられ、驚く。

「さーきっ!」
「きゃ」
「ひさ!」
「水音! 早かったね。元気にしてた?」
「うん、この通り。隼君は?」
「あそこで遊んでる」
「ちっと見ないだけで大きくなったなー」
「そう? 毎日見ているとわかんないけど。待ってね、今呼んでくるから。はやとー!」

隼とは紗姫の息子の名前。
紗姫は小走りで何人かの同世代の子供達と遊ぶ隼のもとへ行き、母親達に別れの挨拶をする。

「隼、みんなにバイバイして」
「バイバイ!」
「バイバーイ。またねー」

一通り挨拶をすませ、手を引きながら水音が待つベンチへ向かう。

「今日は水音おねぇちゃんが来てくれたんだよ」
「やった! ギガントレンジャーごっこしてくれるかなぁ?」
「あはは。頼んでごらん」
「はやとー! おいでー!」

水音がベンチから隼を呼ぶ。それを聞くと、紗姫から手を離して一目散に走りはじめた。
だが、隼の真後ろから何かが飛んでくるのが見える。赤い小さな何か。大丈夫だろうと高をくくっていたが、その何かはまるで隼の頭に吸い込まれるように近づいてくる。
危険を感じた水音は、隼の背後を指差して叫んだ。

「紗姫っ! あぶなっ…」
「え?」

ポスッ!

「ん? なんだぁ?」
「え? く…つ…」

隼の頭の上に靴がちょこんと乗っている。赤い何かは、子供用の小さな靴だった。

「すみませーん! 大丈夫ですか!?」
「美緒ちゃんのママ…。隼、どっか痛い?」
「ううん。痛くないよ」

幸い子供用の柔らかい素材の靴だった為、隼に怪我はなく、相手の親も胸を撫で下ろす。

「ブランコに乗せていたら飛んじゃって…。今日おろしたばっかりの靴でサイズが少し大きかったみたいで。ごめんなさい。隼君もごめんね」
「大丈夫みたいだから。怪我はないし。ね、隼」
「うん。大丈夫だよ」

隼はニコニコと笑いながら自分の頭をグリグリして無事をアピールした。

「美緒、美緒も隼君にごめんねして」
「はーとくん、ごめんね」
「うん! いいよ」
「お! 男じゃん隼!」

水音がそのちっちゃな男気に賛同する。

「だって、美緒はオレがお嫁さんにもらうんだから、これぐらい平気だよ」
「えっ!!?」
「このあいだ幼稚園で約束したんだよな」
「うん。したの」

その話を聞いて一番に吹き出したのは水音だった。
何故なら、隼の父親であり紗姫の旦那は例の靴をぶつけられた男、瓜生翔だったからだ。

あの事件から数日後、瓜生家に訪れた二人は驚愕した。
まず最初に驚いたのは、その家の大きさ。立派な門が構えられておりチャイムを鳴らすとお手伝いさんが現れたのだ。ふたつめは招かれた部屋にいたのは、超豪華な料理と翔と翔だけではなく翔の両親。もうまるで結納でも始まるような環境だったのだ。
そして、翔からの本気のプロポーズ。
靴が繋いだ不思議な縁と思っていたけど、後日よくよく考えてみると、忘れられない程紗姫に心を掴まれてしまった事。そして、自分が幸せにしなければ本当に不幸になってしまうような気がする事を伝えた。
実は紗姫も、最初は気持ち悪いと思ったけれど、同じように翔の存在を忘れる事が出来ずにいた事、意外にも誠実だった事に胸を打たれたことを打ち明けた。

そこからはとにかく早かった。お互いの気持ちが鈍らないうちにと、一ヶ月後には紗姫の両親に挨拶に行き、二ヶ月後には結納。一年後の高校を卒業と同時に結婚、そして現在に至る。

「ちょっと、はははは。笑いが止まらない! 血は争えないって! ははは」
「水音ってば、笑いすぎ」

と言う紗姫もつい笑ってしまう。何しろ真剣に話す仕草が翔にそっくりだからだ。

「なぁに? ママもおねえちゃんも何で笑ってんの!?」
「何でもない! きっと美緒ちゃんは素敵なシンデレラになるわよ」
「そうそう、だから隼人はカッコイイ王子様にならなきゃね!」
「ふーん?」

幼稚園児にはピンと来ない話だが、時代と空を飛ぶ靴が繋いだ不思議な縁は、もしかしたら代々この先も続いていき、不幸なお姫様を救っていくのかもしれない。


余談だが、例の二人を繋いだ紗姫のローファーは瓜生家の家宝として玄関先に飾ってあるらしい。


終わりました。閲覧ありがとうございました。
かなりサックリとしたラブコメです。
私にもこんなラブコメが書けたのだなぁと思いにふけるラブコメ処女作です。
元ネタはシンデレラで、とあるSNSサイトにてシンデレラをテーマとした大賞があり、それに向けて書いたお話でした。だからな感じのネーミングセンスに泣けます(笑)

書く前に、自分が女子高生から離れてずいぶん経つので、昨今の女子高生がどんなもんかとリサーチしたのですが、昔も今も大して変わってはいないんですね。
その年代にありがちな自分は不幸なんだ!という勘違いとか、ちょっと不幸になりたいとか。自分を救ってくれる王子様を夢見る女の子の淡い妄想や、自分をわかってもらいたいが故のはっちゃけた行動とか。女の子と女性の間で大人になろうとしている瞬間などが書けていたらいいなと思います。

まだまだ出せる段階ではないのですが、このキャラ達もいずれ何かの形でどこかに登場します。
その時はどんな女性になっているのか違いを見てもらえたら嬉しいです。

たろっち 2010.8
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