FLYING SHOES 2

ススムモクジモドル
「つーか、アイツさ、何だかアタシの事目つけてんだよね」
「そうだね。水音、悪いことしてないのに。目立つからかな?」
「別に目立つような格好してないよ? 声はでかいけど」
「態度もね。ね、帰ろう」



鞄の中で小道具が踊っているのだろう。そう言いながら紗姫は鞄を持ち上げると、カチャカチャと小道具たちがぶつかり合う音がする。それを聞いた水音はぽつりと呟いた。

「……改めて悟った」
「え? 何が?」
「声も態度もでかい私も人の事言えないけど、紗姫、あんたにはシンデレラは無理だわ」
「えーっ! 何よ突然!」

「べぇつにぃ〜」と少し小馬鹿にするように水音は言うと、教室を先に出て行く。

「あ! やだ、気になるじゃない。水音、待って〜! わあっ!」

水音の後を追いかけようと、走り出すと、勢いがついたせいで、紗姫のチャックを閉めていなかった鞄の中身は宙を舞い、床一面へ落下した。アイブロウ、マスカラ、鏡と細かいメイク道具はコロコロとまるで紗姫を笑うように転がっていく。

「やだぁっ! 水音ぇ手伝ってぇ」
「はいはい。粗雑なシンデレラ様」
「…あ、そういう事?」
「そういう事」
「アタシも紗姫の事言えないけどねー。机蹴っ飛ばしたりしてるし」

図星だが、親友の水音に言われると腹も立たない。二人は散らばるメイク道具を拾いながら自分達の置かれた“普通”な状況を笑った。



水音と駅で別れて、紗姫はトボトボと駅前の繁華街を歩く。水音が現在バイトしている所へ自分もバイトへ行きたかったが、紗姫の家は珍しいくらい昔気質で、バイトはおろか厳しすぎはしないが門限もあるぐらいだった。メイクも度々注意されるので、今は簡単なアイメイクに留めている。それ以外の家庭環境に文句は無かったが、もう少し他の家庭のように緩やかにしてくれてもいいのではないかと思っていたのは確かだ。
来年には受験が控えている。成績は悪くは無いのだから、それなりの大学へ行けと親は促す。だが、このまま進学してもいいのか、本当に自分が進学したい大学なのか悩んでいた。
そう言えば、中学が同じだった先輩が、高校卒業すると同時に同じ学年の男子と結婚するという噂を思い出した。すでに自分達で決めた進路へ向かっていく先輩が羨ましく、そして輝いて見えていた。
なのに自分はどうだろうか。特にやりたい事も無ければ、大学も親の希み通りに進んでしまいそうな自分がいる。ましてやさっき水音とも話し合った通り、普通すぎる自分達にはシンデレラなんて夢のまた夢と認識したばかりだ。世間には自分なんかより境遇が悪くて、不幸な人々がいる。でも、自分のものさしでは自分だって充分不幸な境遇なのかもしれない。甘えた事だと言われたらそれまでだが、せめて青春の1ページになる心躍る出来事は無いものかと漠然と思っていた。

「(神様がいるんならもう少し平等にしてくれてもいいじゃん)」

肩を落としながら目の前に現れたショーウィンドウを覗く。するとまるで覇気の無い自分の顔に余計落ち込んだ。これではせっかく慣れてきたメイクも意味がない。これではいけないと、ショーウィンドウを鏡代わりにして身だしなみを整える。
モクジモドルススム
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