FLYING SHOES 1

ススムモクジ │モドル │
放課後、灰島紗姫<はいじまさき>はクラスメートの小森水音<こもりみずね>は、二人が会員になっているSNSのニュースの話に花が咲いていた。
内容はどこかの国の一般女性が、その国の王子に見初められ、婚約をしたというもの。
少女時代、不幸に続く不幸を重ねてきた女性は、たまたま出会った王子に見初められ、王子の激しい求婚により、周囲の反対を振り切り結婚。見事彼女は不幸から脱した―。と、まさに現代のシンデレラストーリーだと報じている。
その内容に「そんな上手くシンデレラが転がってるわけないじゃん!」と突っ込みを入れたのが水音だった。
確かに水音が言うのは間違いじゃないかもしれない。そんなドラマチックな話や、奇跡と言われるものは、たまーに起こるからこそ価値があるのだ―。と言いたかったらしい。
しかし、それに水を差したのが紗姫だった。
自分のお婆ちゃんが、娘時代にお爺ちゃんになる人と劇的に出会ったという話をしたのだ。



「それでコケた時に脱げた草履がキッカケで、おばあちゃんは、おじいちゃんと知り合って、結婚したんだ」
「うん、出会いはそんな感じだって。草履を蹴り上げて頭に命中させちゃうって言うんだからおばあちゃんてば、天然だよね」
「いや、天然さは紗姫に似てる所あるよ」
「え!? そんな事ないよ!」

紗姫から見てもおばあちゃんは天然だ。年相応の行動とは違うお茶目な一面を見せることがあるので、家族はハラハラする事が多い。そんなおばあちゃんと一緒にされたのではたまらない。

「だって、ホント私なんかよりずっと天然なんだよ。いっつもほわわ〜んとしてるし」
「おばあちゃん知ってるからわかるよ。わかるからこそ似てるって言えるんだよ」
「やだぁ」

別におばあちゃんが嫌いというわけではなく、自分はもう少しシッカリ者だと思っていたので、紗姫はガックリと肩を落とした。


「でも、確かにお婆ちゃんがシンデレラなのは間違いないよねー。天然で可愛くてシンデレラかー。羨ましい」
「昔の貧しい家の出身から比べれば玉の輿だよね。でも今は普通の家庭だし。お金持ちが続いてれば、私だってもうちょいリッチなはずだもん」
「うん、まぁ…うちと変わらない一般家庭だと言うのは否めないわ」
「でも、普通でいいかなー。普通の彼氏とかが欲しいな。王子様が現れたってどうしたらいいかわかんなくてドン引くもん」
「確かに!」

二人は今のままが普通で、不幸じゃないって事だけで充分だと笑った。
そうこうしているうちに水音の携帯が鳴り、同時に設定していたバイブ機能が震えて机を振動させた。

「あーバイトの時間だ。そろそろ行かなきゃ」
「そっか。私はどうしよっかなー。水音がいないんじゃ、遊び行ってもつまんないし」
「勉強してなよ。そんで私に教えて! 漢文とか超やべぇし」
「何それー。太陽君に教えてもらいなよー」
「は!? アイツは関係ないし! ただの幼馴染だから!」
「そうかなぁ、水音は絶対太陽君の事まんざらじゃないと思ってるって」
「やだーやめてよー」

きゃあきゃあと笑い合いフザけていた所で、強面で有名な生活指導の教師が教室へヌッと顔を覗かせる。眉間に皺を寄せて二人を睨み付けると、「部活はどうした?」と声をかけた。

「あ、もう帰ります」
「化粧してんじゃないよな?」
「してません!」

実際はこれからしようと思っていたのだが、化粧のことをピンポイントで問いただされた紗姫は机の上に並べていた鏡とメイクポーチをむんずと掴むと、鞄の中へガチャガチャ無造作に突っ込んだ。

「なんだ、小森も一緒か…悪い事に誘うなよ」
「そんな事しません!」
「早く帰れよ」
「はーい」

教師の足跡が遠のいた所で、水音は軽く舌を打つと、机の脚をつま先でガツンと蹴って、やりどころの無い怒りをぶつける。
モクジ │モドルススム
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