◆アオノニゴウ◆ ―短編―

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 ―19:「あおいせかい」 ―  

二人は歩いていた。
瓦礫に埋もれる廃墟の町を。
あてども無く。

セイの体を纏うことになった青は、飛行能力も、
戦闘機を感知し分析するレーダー機能も
高温、冷気、核兵器等に対応する鋼の肉体も
戦う為の武器機能も…何もかも失った。

でも…間違いなく生きている。
その“感覚”は、無敵と言っても過言ではない体の時よりも…痛切に感じ取れる。

どれ位歩いたのだろう…?

気がついたら辺りは紫の闇に包まれはじめている。
いつの間にか海岸に出ていた。

二人はここに来るまで、ずぅっと無言だった。
つかず、離れず、ただ一緒にここまでやってきた。

立ち止まり、海をみつめる。
恐ろしい程明るく丸い満月。
風が潮の香りを運んで来る。

…最初に口を開いたのは青だった。

「夢を、みたんだ。」

ソラは青の横顔をみつめた。
セイの髪は真っ白になっていた。
前から少し白髪は多かったけど、労力を使い果たしたせいなのか…それとも…。
そこでソラは考えるのをやめて、口を開く。

「どんな夢だったの?」

「光りの中にいたんだ。高い空の上だよ。
…そこから私は落ちて行くんだ。どんどん、どんどん…
そしたら、マスター…セイがずぅっと下の方にいるのがみえた。
彼は登ってくるんだ。どんどん、どんどん…
どちらも凄いスピードなのに、何故か彼だって解ったよ…。
だって彼の話す声が響いて聞こえてくるんだ。
“ロボットを人間に近づけ過ぎてはイケナイ。
だが結果それが私という人間のエゴを抑制し
世界を救う事になったのだ。俺のした事は間違いではなかったと、
今は自信を持ち胸を張って言える。”
…そんな事を言ってたよ。
そしたら…とうとう途中で擦れ違う事になってね…。
その時、マスターが微笑んで言ったんだ。
“選ばれし者よ。オマエの役目はこれからだぞ。
苦難の日々が続くとしても、サァ、行くがいい、彼の所へ…”っ
て…。」

「それ…じゃなかったのかもよ。」
「都合の良い言い訳だとは思わないのかい?」
そんなことはない、とソラは首を振った。
「それなら最終的にセイを殺したのは、本当は俺かも知れない。」
それは違う、と青も首を振った。

「本当は…青…君が存在する場所…どっちが良かったんだろう。
あの高い空と…この低い場所にただ生きているだけのソラの傍と…。」

ソラは泣きながら笑うと、彼の右手を左手で触れて、言った。

「でも…戻ってきてくれて…ありがとう…。」

青は黙って彼の手を握り返す。

鳥が影を落として空を切る様に飛び去った。

「こんな夜に燕?」

海の上…二人の目の前に浮かぶ、明るい月の光りに目を細めて、
燕を追う様に左手を伸ばす青を、ソラは微笑んでみつめた。
それに気がついて青は微笑みを返す。
その時彼は気がついた。私は、微笑んでいる、と。
私は、今、生きている事に対して、彼とこうして心を通わせられる現実に対して
素直に嬉しいと感じた。
そうか、…これが、“喜び”と言う感情なのだ。
そして、それと連結して、自然と顔が綻びる事、それが“微笑み”なのだ。

そう…ここにいる私は、もしかした人間の肉体を纏った“何か”
人間じゃナイかも知れない。
でも、心はココにある。
見えないけれど魂はここに存在している。

昼の空の色を映した様な青い青い花の群れが、
風に揺れざわめき、月の光りに煌く。

今は闇色の世界を繋ぐ海が見えるその場所で
二人は ただ、手を繋ぎ…静かに佇んでいた。



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