◆アオノニゴウ◆ ―短編―

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 ―14:「感情」 ―  

「怒っておられるのですね。マスター。私が生意気な口をきいたので。」

「それとも僕に図星をつかれたんで腹を立てた?」

青は背筋を伸ばし、もう一度上空をみつめた。
酷い眩しさだ。あれは本当にマスターなんだろうか?
いや、さっき強制的にコンタクトされた時に解ってるじゃないか。
間違いない事実を。否定しようのない現実を。
回路に締めつけられる様な波が走る。
人間だったら、これをどんな「言葉」で表現するんだろう。

「マスター。そう、貴方のおっしゃる通り、見た目などは関係ない。
例えどんなに姿形が変わろうと、貴方はやはり人間なのです。
貴方は、復讐心からこんな途方もない事をやってのけた。
でも、マスター…貴方が人間だからこそ、感情があるからこそ
復讐に走ったのではないですか?
復讐は人間の行為だと以前とある書物で知りました。
恨む、悲しむ、怒る、憎む…これ等は全て人間の感情。
そして同時に…尊ぶ、喜ぶ、慈しむ、愛する…これ等も全て人間の感情。
そうでしょう?間違っていますか?」


―嗚呼、間違ッテハ イナイ。
ジャア、反対ニ 訊コウ 零号機ヨ。
ソラ ノ 言ウ…“心”トハ?“魂”トハ?ナンダ?
俺ニハ 見エル。オ前ノ中ニ 芽生エタ、ソノ“感覚”ガ。

… ソレハ ナンダ?

人間デハナイ筈ノ オ前ノ中ニ存在スル…ソレハ?
俺ニハ 解ルゾ オ前ノ 思考、感覚ハ…手ニ取ル様ニ。
何故ナラ 俺ハ オマエ ノ 創造主。生ミノ親ナノダカラ。


青にも解らない。彼の電子頭脳の中には、
セイの作ったプログラムの中には、ソレを示すものがない。
けれど、解りかけていた。それがなんなのか。
きっとコレが「感情」と言うモノなんだろう。
私が私である為の「心」に流れる「見えない何か」

私を始めて私として認識してくれたソラ

彼の為にも私は、私でなければイケナイ。
いいじゃないか、それだけでも。
世界を守るのではなく、
「友人」である
彼を守りたい。

その行動条件…いや、この場合は“気持ち”…か?
それがあれば…それだけで…充分じゃないか。

彼は意を決して、かつてのマスターであった「物体」にこう怒鳴った。

マスター、貴方にリセットボタンを押す様な真似は絶対にさせない。

世界のリセットボタンも…私の体の中のリセットボタンもだッ!!」


…が、彼のその叫びが終わるのを待たず、突如、発光体を中心にして
空気がドンッと揺れ、空気が丸で水面の波紋の様に振動した。
重い重い…そして苦しい音
青は強烈な音の伝道が来るのを最初の幽かな波形で素早く察知し、
内部で中和する音を作り出す事に成功した為、なんとか立っている事が出来た。
が、ソラは堪らず耳を塞いで目を見開いたまま、悲鳴をあげ地面にくずおれる。
脳も骨も肉も内臓も…それ程までに五感の全てに襲い掛かる音だった。

―オマエハ 何カ 勘違イ ヲ シテイル様ダナ。

その声は怒りに満ち満ちている。

「え?」

―イイカ、P−No.key.零号機ヨ 俺ノ れぶりかんと青の二号 ヨ。
俺ハ オマエニ 任務ヲ 与エタ筈ダ。
コノ退廃シ、腐ッタ世ノ中ヲ滅ボシタ後、 
人々ヲ正シイ方向ヘ導ク指導者トシテ“ソラ” ヲ 選ビ…
ソノ守護者トシテ “オマエ” ヲ 置イタノダ。

ソレ ヲ オマエ ハ 

何故、オレ ニ 歯向カウ?

何故ダ!?


「それは…」

青はすこしふらつきながら、ソラに近寄りかがんで彼をそっと抱き起こす。
「マスター、さっき貴方がおっしゃった通りですよ…。」
気を失っている様だが、外傷はないようなので安堵した。
「先刻の質問に対して返答いたします。マスター。
ワタシには…恐らく感情が芽生えたのです
自ら考え、自らが正しいと思った行為を実行する。
そう、ソラが…それを教えてくれたのです。それが答えです!

ソラを抱き上げ、安全圏内を探し当てる。そこへ飛ぶ様に走り、ソラをそっと横たえた。
青は自分の状態を確認する。
人工心臓、人工頭脳、共に安定。
各パーツ、体内に仕込まれた武器、良好。
…全て点検完了。

彼は立ち上がり、叫んだ。

「マスター決着をつけましょう。もう終りにするのです、
こんな馬鹿げた人間への復讐劇など!!」



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