◆アオノニゴウ◆ ―短編―

モドル | ススム | モクジ

 ―12:「届かない声」 ―  

オーケストラが突然止んだ。

そして怖い程の静寂が辺りを支配する。
ソラは息を呑み、声を振り絞って問いただした。

「セイ…君なんだろ…?」

―ソラ、ヨクキタネ…

その声は青の口から聞こえてきた。

―…青をスピーカー代わりにしてるのか!?

どんな仕組みになってるのか解らないが
やはり青の髪代わりのプラグはセイ流の洒落だったのかも知れない。

―ソラ…キミノ ネガイハ モウ ワカッテル。

「セイ…」

ソラは唇を噛んだ。

―ソウ、ソレデモ キミハ タトエ 何億分 ノ 一 ノ 可能性ダッタトシテモ
オレヲ 止メニ キテクレル、 ソウ 知ッテイル シ、信ジテタ。


「そうだよ、」ソラは声を高く叫んだ。「止めに来たよ、セイ!
だから…もう止めてくれ、こんな事ッ!!“罪”は僕にある。
あの日、どこにも行き場の無い君の悲しみを、込み上げて来る怒りを、
憤りを、シッカリ受け止められなかったこの僕に!
他の誰も悪くない、罪は僕が全て引き受けるから…もうこれ以上」

喉の奥が詰まった様な哀しみが、ソラを襲う。
それでも掠れた声を振り絞り、言った。

「もうこれ以上…君は、罪を重ねないで…!
罪の無い人々の命を奪わないで…!」


跳ね除けられる願いだと、自分はもぅ既に気付いてる。

…答えは…

―ソラ…ソレハ ムリ ダ

「そうだと思ったよ。」
ソラは悔し紛れに微笑んだ。

―ダッテ、罪ヲ引キ受ケタラ 君ハドウナルノ?

「今まで君がして来たように僕をこの世から消せばいい。」

―ソンナ事デキル 筈 ナイ。

「罪がナイ人々を今まで散々殺しておいて?」

震えながらソラは言った。
暫く沈黙が続く。
やがて青の口が開き、セイが喋り出す。

―ダッテ… ソラ、考エテミテ。 大体 人間ハ コノ地球上デ 
最モ 自分達ガ 優レタ 存在ダト勘違イシテ 無益デ・愚カナ 争イヲ、殺戮ヲ 
モウ何千年モ続ケテイルンダヨ。
俺ハ アノ日カラ…コノ中デ ズゥット 考エテタンダ。

地球上デ最モ “いらない” 生物ハ 人間ジャナイカ …ッテネ。

ダカラ 滅ボス ソウ 決メタ。

全テヲ 無ニ帰シテ “零”カラ スタートサセヨウト。ヤリ直サセヨウト


「だから…!!!」
ソラは拳を強く握り締め、泣きながら絶叫した。
「だから何故一番最初に僕を滅ぼさなかった!?僕だって人間だ!!
地球上に住む、人間なんだぞ!?君を助ける事も出来なかった
罪深い愚かな人間の一人なんだぞ!」

―君ニ 罪ハ “ナイ” ヨ。

「言ってる意味が解らない。」

―君ハ、平和ノ象徴 “そのもの”ダカラ。罪深キ者 ハ 
自ラ ヲ 迷イ無ク 正義ト 信ジル傲慢ナ モノダ。
君ハ、自ラヲ 犠牲ニ シヨウトスル。 
罪深キ者 ハ ソンナ事 シナイ。


「…僕を現代のノアにでも仕立てようと言うワケ?

―ソウ カモ 知レナイ


ソラは次の言葉を見失った。何を言っていいのか解らない。

彼の胸に自分の必死の訴えは何故届かないんだろう。情けなさに涙が零れる。


地面に透明な涙がボタボタと雨の様に落ちていく。
瓦礫と化したアスファルトの上にその粒が弾けた。
それと同時に微かな音がどこかで“キン”と鳴る。

同時に…何かが変わったのを感じてソラは顔を上げた。

青が、震えている。
苦しそうに喘ぎながら。

「青…?」
今まで見た事の無い症状だ。―青が…壊れてしまう!?
冷水を浴びせられたようにソラの体が恐怖に包まれた。
「青!!」
ソラが彼の名を呼ぶ。


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