◆アオノニゴウ◆ ―短編―

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 ―11:「ガルガリン」 ―  

黒い木の葉の影の様なモノが上空からくるくると幾つも幾つも降っていた。
炎と煙を纏って。

あの中にも、もしかしたら人が乗っているのかも知れない。
彼等に家族はいるのだろうか?
…そんな事を考えながらソラは走っていた。

何故リモートコントロールを使わないんだ…。
ロボットを、アンドロイドを使えば人間は誰も死なずに済むのに。
…そんな事を考えながら青は走っていた。

彼等の頭の上を、かつて戦闘機だった塊が轟音を立て錐揉みしながら飛んでいく。
戦闘機の残骸が彼等目掛けて降って来た。
青はソラの腕を掴み、彼を抱く格好で地面を強く蹴った。
それと同時に彼は空中に舞い上がる。
墜ちて来る残骸を滑らかな線を描く様に飛び、交わして行く。
やがて、彼等のかなり背後の方で、爆発音が鳴り響き、
熱された風が一気に彼等に向かって押し寄せてきた。
「墜落した…」
ソラが肩越しに後を少し振り返り呟いた。
「振り返っちゃイケナイ。」青が言う。「今だけは目的を見失わないで、ソラ。」
ソラはその言葉に上空を見上げた。

青い空。その場所に同化する様に、巨大な“ソレ”は浮かんでいた。

「セイ…!!」
「そう、マスター・セイです。」


そう言った後…青は突然その場所で着地した。
かつて繁栄した街の、大きな大きな十字路、そのド真ん中で。


「音が。」青は急に目を閉じる。

「え?」ソラは荒い息のまま、青の横顔を見つめた。

「音楽が聴こえる。」

ソラの耳には何も聞こえない。

「アオ…?」

何が起こっているのか解らず、ソラは青の袖を掴んだ。



その時だ。

青が目を見開いた。

それと同時にソラの耳にも音楽が流れ込んでくる…。



それは青の口からとめどなく溢れ出ていた。


口を開けたままの状態で、青が素晴らしいオーケストラを
奏でている。歌っている。その目は固定されたガラス玉の様に
一点で静止し、ソラを見ていない。

ヴァイオリンが、ホルンが、トランペットが、チェロが、オルガンが、
コントラバスが、チェンバロが、ヴィオラが、ドラムが、フルートが、
ピアノが…見えない楽器達が空中を見えない音符で埋め尽くしていく。

コレは…ナニ…?
幻覚?幻聴?
美しい演奏は止まらない。
それに合わせて輝く光りが空から燦燦と降り注いだ。
青、白、蒼、水色、浅黄色、紫紺…
キラキラと星の様な光りの粒子が、沢山…たくさん。

ソラはその光りの堕ちてくる場所を見上げる。

かの青く巨大な丸い発光体が、眩しい光を放ちながら彼の真上に座していた。




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