◆アオノニゴウ◆ ―短編―

モドル | ススム | モクジ

 ―10:「神?」 ―  

最新鋭の戦闘機が音も立てずに猛烈なスピードで空を切る。
マイナスの気温の世界をエンジンの熱さが鋭い飛行機雲を描いて行く。

廃墟と化した埃の舞う街のメインストリートを歩いていたソラと青は、
上空を見上げて、その戦闘機達が何処へ向かうのか悟った。

「いるんだ…すぐ近くに…セイが。」

未知の脅威…無作為で広範囲を完全に壊滅させる破壊行為…
各国は協力し合う事を余儀なくされていた。
今まではあれだけ己の利益だけを得る為に、
騙しあい、化かしあい、殺しあって来た者達が
こんな事態になって初めて同じ方向を向いて
恐怖の権化であるあの青い発光体を…セイを撃ち落とそうとしている。

―…皮肉な話だ。

空を見上げる二人の傍を、虚ろな目をした人々の群れが進んで行く。
先頭の男は宗教家だろうか。大声を張り上げ叫び続けている。
「来たのだ、予言の日は来た。神の怒りが解き放たれた。
我らの神を信じよ、さすれば救われん。」
人々は一様に何かを口ずさみ、唱えている。
母の胸に抱かれた子供が、あどけない眼差しを母に向け、尋ねる。
「ママ、どこへいくの?」
母親は子供の顔を見ないで答えた。
「神様のいる場所よ。」

ソラはその言葉に目を見開き、振り向く。
―神様のいる場所だと…?
一瞬にして言いようの無い怒りが…悲しみが…
彼の足の底から湧き上がり全身を支配される。
ソラはその後を追おうとして振り向きざま走りだそうとした。
が、それをアオの手が素早く静止する。
「何で止めるんだよ、青!」ソラは絶叫した。
「馬鹿げてる!!神の怒り?アレはセイだ。
人間の怒りと悲しみの権化だぞ!?
神のいる場所って…なんだ!?
神のいる場所へ行く?それがどう言う事か…
それがどう言う意味か…アオ、君だって…解るだろッ…!!」

憤りに堪らず青の胸を拳で叩いた。
「人の弱みにつけこむ神様なんて神様なんかじゃない!
命を粗末に扱ってイイなんて、そんな理不尽な事あるかよっ!」
「ソラ…」
埃の中に消えていく人々の後姿を見つめ、
青は目を伏せてそんなソラの肩を抱く。

「止めよう。マスターを。そうすれば…きっと…。」

ソラの肩に置かれたその手に力がこもるのを感じて、
彼はその手の上にそっと自分の手を重ねる。
青の冷たいその手が熱を帯びている様にソラは感じていた。


モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) SPACE AGE SODA/犬神博士 All rights reserved.