◆アオノニゴウ◆ ―短編―

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 ―05.:「決意」―  

「ソラ、俺は間違っていた。」

部屋へ入れと促がしたが、彼は無表情で首を振る。
玄関でびしょ濡れのまま立ち尽くすセイは、
あの日見たP−No.key.零号機にそっくりだった。
…否、P−No.key.零号機が、彼にそっくりなのか

「俺は今や世界一の凶悪な犯罪者になっちまった。」
「それは違うよ、セイ、諦めちゃ駄目だ。
まだ君を支援してくれる人が大勢いる筈だよ。」
「だがこの流れを変える事はもう無理に等しいだろう。」
「今タオルを持ってくる、待っててくれ。」
ソラは踵を返して洗面所へ走る。
その時、セイが小さく何かを呟いているのが聴こえた。
「結局、この世に人間が存在しているのが間違えなんだ…。」
ソラはその言葉にギョッとしてセイを見つめた。
「バカな事を考えないでくれよ…?」
「人間が悪用する事なんて本当は想像がついてたんだ、俺は。
考えてみたら俺も人間じゃないか。なぁ、そうだよな。」
「だって…今回の事は、君が悪用したんじゃないだろう!?」
「俺は欲に目が眩んだのさ。名誉に、地位に、金に、権威…
P−No.key達を悪用する人間がいる事位、
人間が過ちを犯し続ける生き物だって事位、
本当はとっくの昔に気付いてたんだよ!」
「でも…人間なら欲望があって当然じゃない!
それが生きていく糧になる場合だって…!」

その言葉を遮る様にセイが顔を上げた。

「ソラ、俺は始末をつけるよ。
自分の犯した過ちを“零”にする事にしたよ。
だから罰として俺の二号の“零”の化けの皮を剥いで、
五つにするからね!閉じ込めちゃうからね!


意味不明な言葉。…その目には生気がない。
ソラはゾッとして、セイの方へ近寄り、その左腕を掴もうと手を伸ばした。
その瞬間。
セイは声を立ててけたたましく笑い出した。

狂った様に。
…いや、もう既に狂っていたのかも知れない。

「ソラ!俺は“零”になる!!
そして、世界を“零”にする!!俺が、世界を!!!」


ゲラゲラ笑いながらセイは扉を勢いよく開けて、土砂降りの中へ飛び出していった。

「セイ!!!!」

ソラの彼を呼ぶ声は強く叩きつける雨の音で掻き消されてしまう。
…それがソラがセイを見た最後だった。

…その後の目を覆いたくなる様なあの日の
悪夢の様な光景が、ソラの脳裏に蘇った…。


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