◆アオノニゴウ◆ ―短編―

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 ―02:「是平 陶磁(ゼヘイ トウジ)の研究室」―  

「お願いします、他に知らないんです。
俺は貴方以外、他の誰も知らないんです。」
暗い部屋。天井が低く、空気は重い。
彼はそこでもう一時間近くもこんなセリフを繰り返していた。

彼に背中を向けたまま、話しかけられ続ける男は溜息をついた。
「アンタ…」くるりと彼の方を向く。「大昔の壊れたレコードの様だな…。
さっきから同じセリフばかり繰り返しとる。」
彼が話しかけ続けていた男は、老人だった。
白くボサボサの髪に口髭。分厚い眼鏡。
骨と皮だけかと思えるほど痩せており、ぶかぶかで、
よれよれの白衣にはオイルが染みている。
何かの機械を修理していたらしい。
「私にゃあ無理だよ。」老人はスパナを握った手の人差し指を彼に向ける。
「私ゃ…、ソラ、アンタの親友の技術にはとてもとても敵ぃやぁしない。」
「例え何と言われても、俺にはもう…
是平さん、貴方しか頼れる人はいないんです。
お願いします。どうかお願いします。」

“ソラ”は、体を90度に折り曲げ、深々と頭を下げた。

「…セイ君は…天才だった。」

“是平”老人はそんなソラの姿を見ない様にして、
…そんな彼の抱えて来た首も、作業台にずらりと並べられた
6つのボディパーツも見ない様にして…
ずり落ちた眼鏡をなおすフリをしながらうなだれる。

「ええ、そして、とんでもないナルシストでした。」
ソラは顔をあげると、目を伏せて躊躇無く言った。
「だからこんな馬鹿げたコトをしちまったんです。…セイは。」
部屋の奥の薄青い光りが、ジジ、と音を立てて揺れた。
それに促される様にソラは瞼を開く。

彼の視線の先には例のアンドロイドの首があった。

「そしてソレが彼の唯一の失敗に繋がった。



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