◆アオノニゴウ◆ ―短編―

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 ―01:「首」―  

彼は箱を拾った。

人っ子一人いない瓦礫や廃材が渦高く積まれる危険な山の中腹で。
古いオイルや、鉄錆び、埃、黴と言ったありとあらゆる終りに近い
陰鬱な匂いが立ち込める、混沌の権化。

そこで彼は銀色に輝く箱を拾った。

箱には小さな電子プレートがあり、そこに彼は指でこう書く。

「アオノニゴウ」と。

…すると箱はパクンと微かな音を立てて堅く閉じた扉を開く。
その中身は…「首」だった。
…と、言っても人間のソレではナイ。
アンドロイドの「首」だ。ずっと探していた最後の1パーツだった。
一見すると、本物と見間違うばかりの程精巧な「首」を
その箱の中から彼は拾い上げた。
精悍な男性の面立ち。顔の色は高い空の様なブルーである。
―以前見た時はちゃんとした人間と同じ肌の色だった…
頭部の髪に当たる部分は、色とりどりのコードでコーティングされたプラグだ。
―以前に見た時はちゃんとした髪の毛がついていた…
右目のみ破壊されてオイルが血の涙の様に流れ出してはいるが、
他の部分に酷い損傷はナイ様だ。
―以前見た時は…
そこで、首を持つ彼は思考を止めた。そんな考えを巡らして見ても
今のこの状況では無意味だと気がついたから。

その首を持つ彼の姿…。
あどけなさがどことなく残る様な少年の様な面立ちが、
却ってその首の陰惨さを際立たせた。

…暫く彼は、首を見つめていたが、顔を歪め「やっと見付けた。」と
唸る様に言って、首を自分の胸元へひしと抱く。

「嫌な予感がしたんだ…最初に君にあった時から…
ずっとどこかで、こんな想いをする事になるんじゃないかと感じていたんだ。」
彼は肩を震わせ、搾り出す様に呟いた。
「約束する。」廃墟と化したビル郡を、灰色の砂風が強く吹く。
彼はゴーグルとマスクを素早く装着し、
首を胸に抱えて脇に止めてあったフライング・ボードに乗り、レバーを引いた。
「必ず君を甦らせてあげる。…だから…」
ボードは砂嵐の気流を上手く捉えて、物凄い速度で走り出した。
一直線に目的地へ向かって。

「アイツを・止めて。」

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