◆鏡のパルス◆ ―雲外鏡伝奇―

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  「7」 −ありがとう−  


ゆり!
ゆり!!
ゆり!!!

遠くの様な…近くの様な所から声がする。

「百合…ゆりッ!」

その声に百合はそっと目をあける。
ソコには見慣れた、葵とマキの顔があった。
「あ…あたし?」
「良かったよぉ…目あけなかったらどうしよっかと思って…!」
葵が泣きそうな顔で、廊下に座り込んだまま 
ハァッとヒトツ大きな溜息を漏らした。
「ゆり、ちょッ、マジだいじょぶ?つかホント具合悪かったんだね!」
マキが、体をかがめ膝に手をおいた格好で、
綺麗にメイクした眉を八の字にする。
「あんまりね、心配だったから二人でホームルーム抜けてきちゃった…。
そしたら廊下で倒れてるんだもん…心臓飛び出るかと思ったよぉ。」
「でも、死んでなくてマジよかった〜。
頭とか打ってない?一応保健室、いっとく?」
「ううん、平気、痛い所もないし…」
そう言って体を起こし、頭を触った後、自分の頬に左の手が触れた瞬間、
何故か自分の意思とは無関係に、目から温かいモノが溢れだしてきた。
「あた…あたし、生きてる…」
「ヤダッ!百合、ダイジョブッ!?」
うん、と子供の様に頭をこっくりさげる。
空気が冷たいせいで、涙は落ちてくるそばから冷たくなっていくが
何故かそれも心地よかった。
「ゴメッ…なんかビックリしちゃってッ…」
そういって立ち上がろうとすると、葵がサッと肩を支えてくれた。
「無理しちゃダメだよ?」
その手がとても温かったせいか、百合はとてもホッとして
グイッと涙をぬぐう。その姿をみて、
「つーか、百合、朝めし、抜いたデショ?」
マキがニヤッと笑う。ウン、とうなずくと、
やっぱりなぁ、と大袈裟に頷き、腕組みした。
「そりゃぁアレだ、血糖値ってのが下がっちゃって
具合悪くなったんじゃね?!」
「マキ、物知りじゃん!じゃ、なにか食べれば、少しはよくなるかな?」
葵は微笑むと、そういいながら立ち上がり、百合に向かって手を伸ばした。
「いこ!」
百合はその手をとり、握ってみる。葵は力強く握り返してくれた。
立ち上がると、さりげなくマキが腰に手をまわして、ニッと笑った。
「ありがと…!!」

ありがとう。

その言葉が自然に出たのがなんだか自分でも不思議だった。
二人は百合の言葉に笑いながら頷く。と、そこでマキが明るく言った。
「よし!百合の為にサボだ!サボッ!」
葵がそれにすかさず突っ込んだ。
「ホントはマキがサボりたいだけだったりして〜」
「ばれたかっ!」
三人は晴れやかに笑った。

その時。

−キヲツケロヨ…

声が反響した。
同時に視線を感じて、百合は慌てて後ろを振り向いた。
その先には、例の鏡が重くたれこめた雲間から
本の少し差し込むプラチナ色の光を反射してキラリと輝いている。
―気のせい…かな…?
視線を戻そうとした時、また声が聞こえた。

―きをつけろよ。

ヤカイの声だった。

百合は息を呑む。でもその声には悪意はこもっておらず
ただ本当に身を案じてくれている声と解った。

百合はその忠告に、ゆっくりと頷く。

「百合?」
葵が繋いでいる手にキュッと小さく力を込めてきた。
「だいじょぶか?」
マキが百合の腰をポンポンと叩く。
様子がオカシイのを心配したのだろう。
二人は怪訝な顔つきで百合に寄り添ってきた。
「あ…ゴメンね!行こう!!」
百合は、微笑み二人を促した。
二人もホッとしたように百合を囲んだまま笑顔を返す。

そうして少女たちは、軽やかな足取りで
鏡に背を向け歩き出した。



…鏡はそんな少女たちの背中を映して、

薄曇りの空から送られてくる光を本の少しだけ、反射させる。

その時、

鏡の左の隅の影がフと濃くなり、

そこから‘誰か’が

あおい・あおい瞳で

じぃっ…と



“こちら側”をみつめているのだった。




−ツギハ オマエノ バンダ…!




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