◆鏡のパルス◆ ―雲外鏡伝奇―

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  「終章」 −鏡のパルス−  


百合の姿が鏡の向こう側に消えると同時に、
夜快は「すまん…」と俯き、寂しそうに微笑んだ。
「また、お前等に体を提供してやれなかったな…」
夜快の後ろには男女様々な年齢の子供達が立っていた。
子供達は皆一様に、首を横に振ると、彼に微笑み返す。
「アイツは、ちょっときっかけさえあれば、性格治りそうだったからな…」
夜快はフッ小さく溜息をつく。
「余計なお節介ってのは解ってるが、取り返しがつかなくになる前に一人でも…」

その時、言葉が途切れて、彼の瞳が大きく見開かれる。

一人でも?

ヒトリでも、なんだ?

俺がきっかけを与えて軌道修正してやれるのはアイツの様に
本の少しでも「こちら側に対する感知能力」があって、
「傾ける耳をまだ持ち合わせている」奴だけだ。
他の連中は邪過ぎて、例えこっちのフィールドに引きずり込んだとしたって
俺達の声に耳を傾けない所か、
聞こえるなんてありゃしない。
その上、生まれつきの悪意や邪な感情で俺達が傷つけられ兼ねない。

俺がしてる事に意味なんて…

―アルヨ

夜快がその声に後ろを振り向く。
子供達だった。

―ダッテ、アノコハ、イキルコトノタイセツサ、オモイダシタモノ

「…お前達…」

―ヒトリデモ ココロヲ ウゴカセルッテ スバラシイコト

―ダレニデモ デキルコトジャ、ナイ

夜快はそれを見て唇を噛むと、小さく頷いた。

そうしてから彼は、上を見上げる。
暗闇の上空に長方形にポカッと開く光の穴がソコにはあった。
百合が帰っていった「光さす向こう側との出入り口」だ。
見えない階段を上る様にしてそこへ近づいていき
左の隅からそっと「向こう側」を覗き込んだ。
「向こう側」では少女達が、笑顔を交し合っていた。
彼女達の体の周りには
命の火が楽しげに赤々と燃えている。
なんと美しい事か。

夜快は一度目を閉じ、そっと指先で自分の瞼に触れた。
指先には何のぬくもりも伝わってこない。
瞼の裏に浮かぶのは、冷たく揺らぐあおい火だ。
―…まるでこの目の色だな…。
夜快は小さく溜息をつくと瞼を開いてもう一度鏡をみた。

彼との賭けに勝った少女は、歩きだした所だった。
夜快はその後姿につぶやいた。

―…気をつけろよ。

少女はハッとして、コチラを振り向く。
…そして、力強く頷いた。

夜快はその姿に無言のまま頷き返した。

―そんな風に「生」を謳歌出来る幸せを、決して忘れるなよ…。

ゆだんして
「負」のかんじょうを
たれながし
たにんを「呪」いつづけていると

そのパルスをかぎつけて

いつまた“こちら側の誰か”が

おまえをひきづりこむかもしれないから。

去っていく少女達の後姿を
鏡の裏側から
‘怖い怖い誰かさん’は

じぃっ…と

ただ静かに見つめているのだった…。






−サァ、ツギハ ダレノ バンダ…?






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