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第2章 高山亘【少年との出会い1-1】

高山亘、30歳。武蔵国府潮区署・組織犯罪対策部警部補。
主に暴力団関係や賭け事に関しての対策や取締りを行う部署だ。今日も彼は“捜査”の名目で街をフラフラしている。
4月上旬、街頭の桜も満開になり、風にチラチラと花を散らせるのが美しい。交代勤務制で、今日は午後5時15分で終わる日勤だ。就業時間まであと20分弱。今日は直帰の届けは出してあるので、このままフケてしまっても構わない。
どこへ遊びに行こうか。パチンコ、いや、懇意にしている組関係の者が若頭補佐の男と会ってほしいから呑みに行こうとも言われていた。どちらにしろ急ぎの用事は無いので、どれを優先させても構わない。
一瞬だけ、家に帰ろうかと頭をよぎる。高山は結婚をしていて、娘と息子が一人ずついる。…が帰っていない。多忙を理由に帰らない日が続いていたら、妻の携帯電話の連絡先が変わっていたので、何となく帰れなくなってしまったのである。給料が振り込まれる通帳の残高は減っているので、亭主元気で留守がいいという事か。それでは高山自身はどこで寝泊りしているかというと、現在は先に記した組の者が管理している安アパートを用意してくれたので、そこを帰る家としている。
そんな風に今日の行き場所を考えながら歩いていると、高山の携帯が鳴り出した。胸ポケットから携帯を探り出し通話ボタンを押す。受話口の向こうから聞こえた声は、勤務中の警部からだった。

「高山さん!」
「おぅ、八木かぁ。どした?」

八木とは自分より年下だが、格が上のいわゆるキャリア組の男だ。まだ26歳だが、すでに警視の職が約束されていて、周囲からも羨望の眼差しで見られている真面目な青年だった。
そんな真面目な男が、何故か不真面目の見本市のような高山を信頼していて、何かあるとすぐに高山に連絡をしてくる。キャリアに響くからやめろと忠告しても止めない理由は、後述する過去にあった。

「ちょっと助けてほしいんですよ」
「あぁ!? 俺はもう仕事終りだぞ? それに部署が違うじゃねぇかよ」
「まだ20分ぐらいあるじゃないですか。それに高山さんの経験が僕には必要なんですって」
「…いや、まぁそうだけども。俺の経験たってなぁ」
「お願いしますよ!」

一度は拒否に似た言葉を言ってみるものの、どうにもこの男には弱い。頼まれると嫌と言えなくさせる術を知っているのだ。

「まぁしょうがねぇ、話だけは聞くよ」
「へへへ、さすが高山さん」

仕方なく八木から聞かされた話はこうだった。
生活安全部・少年事件係に度々入ってくる情報で、少年達が小遣い稼ぎで悪さしているらしいとの事だった。少年達が悪さをする事ぐらいならば、「自分で片付けろ!」と大きな声を出す所だったが、どうやら資金源のひとつに暴力団が関わっているらしい。そうなってくると生活安全部だけでは手に負えないので、高山が現在所属する組織犯罪対策部の管轄となってくるのだ。

「で? その情報は確実なのか?」
「ええ、どうやら幹線道路の高架下が根城みたいですね」
「あの潮と小乃葉の間ぐらいの何もねぇ所か…」
「それで…えっとー」
「…行けってか?」
「ビンゴです! もちろん直帰の届けはこちらで確認して超勤扱いにしておきますから」
「チッ、バカヤロウ…」

もっと早くに予定を決めて時化こんでしまえばよかったと思うのはまさに先に立たない後悔か。高山は携帯を切ると、少年達が根城にしているという高架下へ向かった。


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