GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-14】

初めて連れて行かれた場所。違法賭博。テレビとは違う格闘技。
そして…不思議な少年あさひとの出会い。戦い方、大人達を翻弄する喋り、常人とは何もかもが違うが、時折見せる子供らしい仕草をし、ただの不良少年ではない何かを感じさせる。

「(何故、俺はこの子を家に連れて来たんだろう)」

しかしそれは偶然では無く必然のような気がしてならない。
説明のつかない何かが起こりそうな予感がしたから、あのゴミ集積所で帰してはいけないと感じたのだ。

「変な気分だ…」

体勢を仰向けにして、しばらく天井を眺めた後、北薗は目を瞑る。再び今日の出来事が頭を駆け巡った。それを繰り返しているうちに自然と眠気が来て、北薗は眠りにつく。

北薗の人生の歯車が噛みあい、動き出した一日が終わろうとしていた。

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「おはよう」
「お…おはよう」

北薗がいつも出勤する時間と同じぐらいに目が覚めるとリビングにはすでにあさひが目覚めて体を動かしていた。

「あっ!」
「なに?」
「そんなに動いて…足は?」
「湿布、北薗さんが貼ってくれたんだ。当たり前か。他に誰もいないもんね。もう大丈夫だよ。ありがと」
「もう大丈夫って、あんなに苦しんでいたのに。どれ、見せてみなさい」
「大丈夫だって…!」

近づく北薗と逃げるあさひ。部屋の中をくるくる追いかけっこしているうちに先にバテたのは北薗だった。

「はぁ、はぁ」
「運動不足なんじゃないの?」

くすくすと意地をつつくようにして笑う。
きっとこれが女の子だったら小悪魔という形容詞が似合うのかもしれない。いや、もっとも女の子だったら部屋に連れてこようとはしないだろうから、この場合はおかしいが。

「それだけ動ければ大丈夫だな」
「うん。寝ている時に痛かったのは覚えてるけど、朝見たら湿布が貼ってあって。あ、治療してくれたんだなって思ったんだ」
「治療という程大したことはしてないけどな。もう貼っている意味ないだろ。湿布剥がしたら?」
「もう剥がしてるよ」
「ええ?」

あさひの色があまりにも白いので湿布が貼られたままなのかわからなかったが、夕べ湿布を貼った箇所のアザは殆ど消え去り、よくよく見ないとわからないぐらいの色にまで回復していた。

「まさか…だってあんなに腫れて変色して」
「そんなにひどかった?」
「ああ。しかし…嘘だろ」
「そんなこと言っても治ったんだもん」

驚くべき治癒能力に北薗は目を疑い再び眺めていると、『いつまで見てるの?』と言った顔で見られてしまったので、目を逸らした。

「いつもこんな風に傷の治りは早いのか?」
「うーん…どうだろ。怪我してもいつも放っておくから」
「そっか。まぁ大丈夫ならいいんだ。安心したよ」

北薗の笑った顔があまりにも嬉しそうで本当に自分を心配してくれている雰囲気だったので、あさひはオドけるのはやめた。両手を体に合わせて「ありがとうございました」と改めて深々と頭を下げる。

「いいよ。そんな急にかしこまらなくて」
「だって…見ず知らずの俺に色々して、助けてくれたし」
「それはお互い様じゃないか」
「うん…」
「さて、朝飯食うだろ?」
「いいの?」
「いいんだよ。用意するからちょっと待っててね」

そう言って北薗は台所に立ち冷蔵庫から色々取り出すと用意を始めた。包丁さばき、調味料の扱い方などその一連の仕草は慣れたものだ。大学時代に一人暮らししていた結果だと、作りながら北薗は言う。「ふぅん」と関心なさそうに短く言ったあさひは、その実感動していて言葉が出なかった程だ。
ほどなくして出来上がった料理が小さなお膳に並べられる。足を崩して座っていたあさひは姿勢をシャキッと直して座りなおした。

「ほい! 出来たぞ。食べよう」
「うん」

朝の光射し込む狭い和室リビングに並べられた朝ごはんは特別変わったメニューでは無かったが確実に他人だった二人を友人へと近づけるぐらい心を解していく。それをいち早く感じたのは北薗で、食べることに夢中だったあさひへ言葉を挟んだ。

「あさひはこの後どうするんだ?」
「この後?」
「食べ終わったらさ」
「うーん…」

食べる手を休め、考え込むところを見ると予定は無いのだろう。人はどうしても悩むときは言葉を無くしがちだ。

「行くところが無かったら、ここにいるかい?」
「でも」
「君と俺は、もう友人だ。もっとも、こんな年上じゃ困るかもしれないけど」
「ううん…そんな事ないデス」
「そしたら友達になってくれるかい?」
「うん」

かくして二人は“友人”という肩書きになった─。


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