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第1章 北薗崇【ギャンブル3-12】

まだ名前も知らぬ少年を北薗は自分の家へと連れてきてしまった。それは帰る場所が無いらしい少年に対しての保護者的精神からもある。
昨今の家出少年は、キレやすくて危険だとかナイフを持っているとかメディアでは騒がれているが、逆にあのような戦いを見せた少年が北薗には怖く感じなかった。むしろ昔馴染みというか、初めて会ったような感じがしないのだ。
たまに初めてあったのに十年来の付き合いな気がする人だとか、又、久しぶりに会っても昨日まで会っていたように感じる人物がいる。きっとその類なのだろう。

「着いたぞ。どうぞ入って」
「うん」
「俺、一人の暮らしだから散らかってるけど」
「……おじゃまします」

余計な補足とも取れる言い訳をしながら、少年を中に招き入れる。
部屋の電気をつけると改めて見る少年のハッキリとした姿に北薗は息を飲んだ。
男性すぎもせず、女性の柔らかさでは無い体つき。そして全体に光を帯びたような色味。釘付けになった視線を解いたのは少年の一言。

「なに?」
「い、いや…」
「……?」
「そういや名前聞いてなかったなって。年齢とかも」
「……うん」

明日にはこの部屋を出ていき、その場限りの付き合いで、年齢も、名前すらいらないかもしれない。しかし北薗にはこのままでは終わらない感じがしてならなかったから敢えて訪ねた。

「葛葉あさひ。15歳。アンタは?」
「あ、ああ。そういえば俺も名乗ってなかったな。俺は北薗崇。25歳だ」

あさひと名乗る少年はアッサリと名前を明かしてくれた。
それが本名かどうかは別として、これで名乗る名前を知れたから話すのは少し楽になると北薗は思う。

「ふぅん、10歳違うんだ」
「そうだな。何だかジェネレーションギャップを感じるよ」
「そ?」
「10年、ひと昔って言うぐらいだからな」
「俺は別に感じないけど…」

くすり…とあさひが笑う。賭場から逃げ出した後、路上で見た笑い顔から二度め。その妖艶な顔が北薗の心臓をくすぐった。

「あ…えっと、あさひ君。汗かいたろ? 風呂でも入っておいで」
「いいの? 風呂まで。ていうか、あさひて呼び捨てでいいよ」
「あ、そうか。じゃあ遠慮なく。あさひ、君を家まで招待したんだ。それぐらい当たり前さ」
「へぇ、優しいね。ねぇ、優しさついでにワガママ言っていい?」
「なんだ?」

話しながらあさひはジャージを脱ぐ。床に下ろしたスポーツバッグの中からTシャツなどの着替え一式を取り出し、風呂の準備を始めた。

「喉渇いた…何か飲ませてほしいんだけど」
「あ…あぁ、冷蔵庫に何かしらあるから飲んでいいぞ」
「サンキュ」
「ちょ…ちょっと俺は風呂の用意してくるから」

あさひのひとつひとつの言動が北薗の心臓を強く動かせる。まさか少年に色気を感じてしまう程、自分は飢えていたのかと北薗は首を横に振りながら急いで風呂場へと駆け込んだ。

「はぁ、何だかなあの子は…」

風呂場を簡単に整頓して目を覚ます為、顔を水で洗う。少しサッパリして変な気分も吹き飛んだ気がした。
顔を拭くタオルを出しながら、あさひの分のタオルを出してやりリビングへ帰ると、台所の冷蔵庫の扉が開いている。
きっとあさひが何を飲むか悩んでいるのだろうと上から覗き込むと、何とちゃっかり缶ビールもとい発泡酒を飲んでいた。それも息をつかずグイグイ飲み続ける。
それがお酒だと認識して北薗が驚き、止めるまでの間にあさひは1本を飲み干してしまった。

「こ! こらっ!」
「ぷはっ! ん? あぁ、ごちそうさま」
「おま…それビール」
「うん、別にジュースと間違えて飲んだわけじゃないよ」
「未成年がダメじゃないか!」

せいいっぱいの叱る文句がそれしか出て来ないのに情けなささえ感じたが、身を預かる以上、言わないよりマシだ。しかしそんな事を鼻にもかけず、あさひは北薗の場所まで近づく。

「倫理観問うなら、人の良さだけで悪い方向に流されちゃう癖を直した方がいいデスヨ。き た ぞ のさん」
「うぐっ…」

もうすぐぶつかってしまいそうな距離にある顔をもう一段階近づけ、サラリと翻す。
あさひの、その少し小馬鹿にした態度に北薗は面食らい固まった。

「お風呂借ります」
「た…タオルは出してあるから」
「うん、ありがと」
「いいか、俺の家にいるうち…いや、未成年の飲酒はダメなんだからな」
「うん、ごめんね」
「コホン、以後気をつけるように…」

怒ったつもりなのに効果がないのか、あさひはまた薄く笑う。でも今度のそれは、バカにしたわけではなく、何だか嬉しそうにも見えた。


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