GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-11】

北薗の横、ゴミ箱を無言で指差す。

「なんだ?」
「いつまでゴミの横にいる気? 朝ンなったら回収車に持って行かれちゃいますよ?」
「あ、あぁ」

ズボンについたほこりを払いながら腰をあげる。どこでつけたのか白く擦ったような跡が落ちないので、何度か手で叩いていると、その隙を狙ってAKが語りかけた。

「てゆーかさ、聞きたいんだけど」
「え?」

不意をつかれて出た言葉に驚いて顔を上げると、さっきとは違った真剣な表情のAKがいた。多分どう伝えたらよいものか考えているのだろうか。小さく「えー…と」と口を動かしている。

「なんで…」
「…ああ」
「何で、アンタみたいな人の良さそうなのがあんな所にいたの? 尋常じゃないぐらい浮いてましたよ?」

痛いところをつかれて、北薗は苦笑いを浮かばせる。

「あ、はははは。やっぱ浮いてたか」
「ええ」

言葉を濁すように答えた北薗に相反し、今度はキッパリとAKは言い放つ。昨今の少年がこういったタイプなのか、それとも彼だけが特別なのか。掴みどころがないようでいて芯を突いてくるものだから底が読めずに北薗は落ち込んだ。しかしそんな北薗に構わずAKは言葉を続ける。

「ああいった連中は鵜の目鷹の目だから、アンタなんて良いカモにされちゃうよ」

休まずズバリと一言。

「もう行かない方がいいと思いマス」
「あ…ハイ」

瞬きもせず、殆ど口を動かさず仏頂面で少年はスパッと自分の意見(まぁ、正しい意見なのだが…)を言い切る。自分より随分年下の、汚い物言いをすればガキに諭されてしまい北薗はガクリと肩を落とした。

「あ、それと」
「ん?(今度はなんだ?)」
「さっきはオジサンて言ってゴメン。良く見たら若かったんだね」
「あ゛…(うわ───!!!さらに倍で傷ついた…)」

今の位置より更に肩を落としてうなだれるとAKは言葉を続ける。またしても叩きつけるつもりかと構えていると、柔らかく笑うような声がしたので顔をフと上げた。

「アレ、もしかして」
「え」
「傷ついた?」

くすり…とAKが笑う。
その笑顔は形容としては美しいという表現では言葉足らずに感じた。何かこう頭をガツンと殴られるような衝撃と、胃の奥をくすぐられるような柔和さを含んだもので北薗は思わず息を呑んだ。

「い、いや(この子、笑う事出来るのか…)」
「そ?」
「老けて見られるのはいつもの事だし」
「強がんなくていいのに」

今度はクスクスと肩を揺らして子供っぽく笑いながら背を向けると、そのまま歩き出す。何だかこの場から消えて、そしていなくなり二度と会えない気がした。助けてもらって何の礼も出来ないのは北薗の性格上、否、人としてどうかと思い少し強めの声で引き止めた。

「お、おいっ!」
「…何?」
「い、いや…お前これからどうするんだ?」
「別に…」
「時間は…もう11時を回ってるんだな」
「そ?」
「あぁ、えっと…行く場所はあるのか? 電車も無くなるみたいだし」
「無い…けど」
「そしたら、ウチに来るかい? 親御さんにはウチから電話をかければいいし」

AKは驚いたように目を開く。
その大きな瞳に向かい通路の先に走る線路から走る上りの最終電車の灯りが続けざまに入り込み、宝石のようにキラリと彩らせた。

「えっ…と」
「いや、迷惑ならいいんだ」

自分でも考え無しに言ってしまったものだからAKが驚くのも無理はない。北薗はポリポリと照れ隠しに頭を掻いてごまかす。

「迷惑なのはアンタの方じゃないの? 見知らぬ奴を」
「俺は別に迷惑じゃないさ。迷惑だったら初めから誘わないしな」
「…そ」

北薗は立ち止まるAKを追い越し前を歩き振り向く。

「もし嫌じゃなければおいで」
「…………うん」

AKは小さく答えると、北薗の後について歩き出す。
背後からは、下り電車の最終を知らせるアナウンスが響いていた。



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