GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-10】

「ああ! 貴…様さっきの。くそ! 何で勝ちやがるんだ!!」
「勝って文句言われるんだからたまったもんじゃないね。所でオジサン…」
「オジ…あ、ああ。俺か」
「あんたも懲りないって言ってんの」
「う…」
「さ、金…返してくれる?」
「金…?」

そう言うと自分の背よりずっと大きい男達の間に手を入れて、北薗の手から茶封筒を引き出すと無造作にジャージのポケットにいれる。その間、恐れないAKの態度に男達は手を出す事が出来なかった。

「おいガキ! その金どうするんだ!」
「元はこのオジサンのものだし、アンタのものじゃないんだからどうしようたっていいでしょ?」
「そうかもしれないけど、そのオジサンとやらに俺達は分け前をもらえる相談をしていたんだ。さ、返せよ」
「ふぅん。それだったら遅かったね。俺、このオジサンに金貸してたんだ。試合が始まる前に少しでも金が入ったら返してもらう約束になってたんだけど?」
「なんだとぉ?」
「フフ、俺を殴れる? 構わないよ別に」

AKの笑いに一同はさっきの戦いを思い出し、背筋を凍らせた。あの隙も容赦も無い戦いは例えリングの上で無くとも起こり得るだろう。それを理解させる笑みだった。
男達が震え上がる側でAKは視線を北薗へと移した。首をゆっくりと右へ動かしてこの場所からいなくなるように合図する。その意図を汲み取った北薗は壁伝いに体を動かすと、大またで2〜3歩行った所から一気に走り出した。

「あ! テメェ!!」
「逃げる気か!」

足音に気がついた2人の男達は追いかけようと走り出す。それに続いてAKも走り出した。

「ねぇ! 下!!!」
「なに?」
「下に落ちてる!」
「あ?」

軽やかな走りで後から追いかけてきたAKが前を走る男にそう声をかけると、条件反射で立ち止まり下を向く。AKから見て背中を丸めて見せた状態になったのを確認した彼は、両手を背中についてポンと飛び越した。

「うわっ!」

軽やかに着地して振り向きもせず走り去る。
青年達が腰を上げ、状況に気がついた時には階段を駆け上がり、姿は見えなくなっていた。

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無我夢中で受付の黒服が止める声も聞かずに表へ飛び出した北薗は、繁華街を走る。人とぶつかりそうなのを避けながら何本か先の通路へ入り込むと、勢いが止まらずゴミ置き場に突っ込むようにして崩れながら止まった。

「はぁっ…はあ、ふぅぅ」

こんなに走ったのはいつが最後だったか。上がった息を整えるにも頭が混乱して上手く出来ない。北薗は大きく息を吐いて、壁へともたれかかった。

「ふぅ」
「じょ…ぶ?」
「ん?」
「大丈夫?」

目を開けると数十センチ先に顔がある。AKだ。

「うわ…お、お前(走って追いかけて来たのか?)」
「大丈夫そうだね」
「あ、ああ。ありがとう二度も助けられちまったな」
「別に…」
「助かったよ」
「まぁ、良かったね。お互い無事に逃げられてサ」

ここまで来て北薗はようやく胸が落ち着いてきたのを実感した。だが、目の前の少年は息切れをしているのに涼しい顔をして話しかける。何もかもが予想外だ。
その様子に口を開けて見ていると、AKはジャージのポケットをゴソゴソと探り、中から例の茶封筒を出す。そして中身も見ずに、それを北薗の組んでいる足の上へと投げ捨てるように置いた。

「おわっ!」
「ハイ、アンタの金」
「ちょ…これ…」
「さっきは連中の手前、ああしたケド。アンタが俺に賭けたのは事実なんだから…」
「しかし! こんなに…コレ」
「その金はアンタのモンでしょ?」
「そうかも…しれないが」
「じゃあ受け取りなよ」

現金の入った袋を手にして言葉も出ずに考えていると、切り出したのはAKだった。


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