GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-8】

さっきまでロープに体を預けていたAKが真正面をキッと睨んだかと思うと、そのまま走り込んでふわりと飛び上がった。高さや飛び方が、まるでワイヤーロープアクションかのような華麗さで、落ちるまでの軌跡を全員が目で追う。
ただ飛ぶだけではなく、仁科の顔途中で宙に浮いたまま体を半身捻り、足先を伸ばして仁科の耳付近を狙う。急に来た攻撃を払う事もガードする事も出来ずに、かすめた頬から一筋の血が噴き、仁科は足を離してあとずさった。

「なっ…!」
「フッ…フフフ」

AKは片膝をついてリングへ着地すると、飛び上がりながら後へ下がる。妙に自信ある笑い方が仁科をゾッとさせた。
休む事無く仁科の元へ走り寄り、自分がやられたのと同じ様に踵を軸に体を翻す。頬につけられた傷に手を当てていた為、今度も払いのける事が出来ずに、仁科はAKの繰り出した足底<そくてい>を胸に埋めた。

「うぐふっ…」

短い呻き声と共によろけてロープを背中へつけると、形勢逆転してしまったリングの状況にギャラリーがどよめいた。北薗も同じ様に見入ってしまい、止める所かさっきまで怒りに震えていた拳は応援する力に変わっていた。

「貴様、本気を見たいみてぇだな」
「一、弱い犬はよく吠える」
「あぁ?」
「次で終りだ」
「…んだと!?」

挑発の言葉に怒った仁科走り出す。それを見てAKが待っていましたとばかりに笑う。
がむしゃらではなく華麗に走り出し、向かってくる仁科の踏み出してきた膝を踏み台に高く舞い上がった。

「あ…あれ…は?」

AKの姿を追っていた北薗は目を疑った。
人並みはずれた跳躍力がすごいとは感じていたが、それに加えてAKの体全体がキラキラと光を帯びているように見えたのだ。それは汗と照明が見せる演出では無く、彼自身が光り輝いているように北薗には見えた。

「(俺は目がおかしくなっちまったのか?)」

しかしその輝きは他の者には見えていないようで、誰も何も言っていない。それとも、あまりにも美しすぎるそのジャンプに見入ってしまって口が利けないのか。理由はさておき、恍惚させる事も厭わないAKのジャンプの最終目的地は仁科の顔面だった。

「んぐっ…ぷ…」

自身の両膝を顔面へ直撃させる。ぐしゃっと潰れたような音は、鼻の軟骨かもしくは目の上の骨。埋まってしまって見えなくなった部分から2〜3滴の鮮血が飛んだ。
スローモーションのように仁科が背後へと倒れ、それを追うようにしてAKも地面へ辿りつくと、栓が無くなった顔面からは噴水のように血が勢いよく噴出す。

「言ったでしょ? 終りだって」

仁科の顔をまたぐようにして立つAKは、見下しながらポツリと言う。しかし、相手は完全に気を失っていて、言葉は届かなかった。
AKは、カウントする事を忘れたレフェリーを無言で見る。それに気がついたレフェリーは10カウントを始めるが、5カウントも数えないうちに、ロープへと歩き出した。

「もう気絶してるのに、カウントする意味なく無い?」
「あ…しょ、勝者! AK!!」

それまでの間全員が言葉を失っていたが、試合終了を知らせるゴングが鳴ると同時に一斉に感嘆の声を上げた。誰もが予想していなかった結果。それが目の前で決定してしまったのだ。ギャラリーのうち誰かが、『まだ結果はわからないだろ! 10カウントをしろ!』と叫んだが、緊急にリングに上げられたドクターは手でバツのサインを作り、首を横に振る。
それによりマイクを持った黒服から再びAKの勝利と仁科のドクターストップが告げられ試合は終了した。


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