GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-6】

違法の賭博の上、未成年の少年選手。本当にここは治安の良い日本なのかと自分の今までの概念を全く崩されたような衝撃を受けた。

「なに? ずっと顔見てるけど」
「い、いや…」
「早く投票してきちゃいなよ。それとも俺に賭けるのは嫌?」
「そんな事は…」

賭けるも賭けないも、元より賭け事をするつもりはなかったわけだし、ほんの遊び程度の金額だ。あの状況を助けてもらった礼も含めて、北薗は少年に賭ける事に決めた。
投票所へ行き、チケットを黒服へ渡し千円を払うと、半券が返ってくる。そのやり取りに周囲の者がジロジロと見ていたが、北薗は我関せずを決め込み、少年と話した元の場所へと戻った。

「もう、いないか…」

試合前に応援の言葉とお礼をもう一度言いたかったが、少年は姿を消していた。

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「青コーナー。仁科!」

試合開始のアナウンスと共に出てきたのは23戦中17勝しているベテラン仁科。安定している試合に観客の声援が高くなる。

「赤コーナー。AK!」

そして後に続いたのは、例の少年だ。
対戦経歴も無ければ、さっきの投票所での件が尾を引いているのか、ギャラリーがブーイングで沸いた。
一向に静まる気配の無いリング下へ向かって、出てきたレフェリーが静かにしろと手を振り合図をする。仕方無しに納まるがブツブツと文句が出ているのは変わらなかった。
そんな小言をかき消すように、マイクを持ち出した黒服が、ルール説明のアナウンスを始める。

「ルールを説明する! 1ゲーム5分だ。打撃技に加え、頭部への蹴りも可能とする。今回は両者が望まない為、寝技と関節技は無効とする。尚、両肘・両膝の4点ポジションをリングへつき、レフェリーが10カウントを終了した時点で負けが決まる。10カウント内に上体を起こし、ファイティングポーズを取れた場合は試合再開となる。5分以内に決着がつかなかった場合、4人いる審判の審査により決定する。反則技は噛み付き・頭突き・目潰し・金的だ。ある種の非人道的な行為は、有りとする。以上!」

ルールはよくテレビでも放映されている異種格闘技のものとそう大差は無く、格闘経験のある者や好きで見ている者ならば理解しているものだった。だが、あの少年はどうだろうか? 一見格闘をやってきた体型には見えない。
それに戦歴が無い上、アナウンスで最後に言った“非人道的な行為“というのが北薗は気になって仕方なかった。
だが、そんな心配事などよそに無常にも高らかに開始のゴングが会場に鳴り響いたのだった。


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