GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-4】

一人になった北薗は、第一試合が行われているリングを見る。肌と肌が打ち合う音に加え、鈍い骨同士が当たる音が聞こえ、思わず顔を歪めた。
自分も格闘技の類で言えば、少しだけ柔道の経験があるが、あのように蹴ったり、拳を出したりして打ち合う事はなかった。だからテレビでの格闘番組とも違うリアルさには、慣れないものがある。
数秒後、北薗が痛そうだなと感じた部分がやはり決め手だったらしく、向かって右側の選手が膝をついてリングへ倒れこむ。それと同時に試合終了のゴングが鳴り、反対側の選手がガッツポーズでギャラリーへ勝利をアピールした。
その後、選手の退場やリングの清掃に加え、各自配当の支払いが行われる。落胆するものや狂気する物達に分かれ、場内はいっそうヒートアップしていく。
数十分後リングの下にいた黒服がマイクを使ってアナウンスを始めた。どうやら次の試合の投票が始まる模様だ。自分の勝ち点に興奮して場内アナウンスが耳に入っていないものや、酒が入りだいぶ意識が混濁している者たちに、それぞれ別の黒服が声をかけていく。
会場の端で、その様子を見ていた北薗のところへも黒服が現れて声をかける。

「もう投票は済んだか?」
「いえ…俺はやめておきます」

そう安易に断りを入れると、声をかけた黒服が眉根をひそめ、北薗へズイと近づく。

「兄さん…まさか賭けないってこたぁないでしょうねぇ」
「ちょっ…ちょっと待って下さい! 必ず賭けなきゃいけないんですか?」
「知らないのか?」
「俺はここが初めてで何の説明も受けてなくて…友人の紹介で」

しどろもどろで黒服に説明しながら、大森に助け舟を求めようとさっきまでいた場所を見ると、そこに姿は無かった。
慌ててもっと遠くを見る為に背伸びをすると、奥の方で他の黒服と話をしている姿が見えた。表情から見て、何やら算段している様子だ。

「あそこに友人が…」
「説明受けてなかったんなら仕方ないですけどね、入場した時の次から始める試合には、一口千円から賭けてもらう事になってます」
「という事は、あと4試合…」
「そういう事。最低でも四千円です。ビールもツマミも千円内で収まる金額だし、良心的でしょう」
「確かに…」

掛け金もBARも、ちょっと遊ぼうと思ったら簡単に飛んでいってしまう金額だ。だからといってホイホイ使っていたのでは痛い目を見る。それだからこそ賭事は怖いのだ。

「わかった。ルールならば従うよ。どうやって賭けるのか方法を教えてくれ」
「ではこちらへ来て下さい」

黒服に言われて、リング下の掛け金受付所へと行く。
その場にいる者達の会話に聞き耳を立てると、皆、一様に『次の試合は賭ける意味が無い』などと話をしていたのが耳に入った。
しかし安易に書き込むのもどうかと思った北薗は、ひとまず名前記入欄にさっき与えられた偽名と、掛け金欄に金額の千円とだけ記入をする。

「なんだあんちゃん、図体でけぇ割にしょぼい金額じゃねぇか」
「え?」

書き終わり、対戦者番号をどうしようかと悩んでいると、見知らぬ男が茶々を入れてきた。
近くにいるだけで酒を飲みすぎた人間の嫌な匂いがした。

「千円なんてドブに捨てるようなもんよ! 勝負はもっとデカく行けって」
「い、いや俺は初めてだし」
「あーん?」

絡まれてはいけないと適当に話を流したのが逆効果だったのか、男は管を巻きながら周囲にその事を話しだした。

「おいおい! 聞けや! ここに腑抜けがいんぞぉ!」
「な…別に最低ラインで賭けても問題ないんでしょう? 遊びなんだから!」
「遊びだぁ? テメェ俺らを馬鹿にしてやがんのか?」

低く唸りながら、腐った目つきで男は北薗に近づく。


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