GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-3】

「お、もう第一試合始まってるな」

階段を下りて、少し行くと広い部屋にリングが見えた。
そしてその周囲には、何人か…ざっと数えて30人弱ぐらいの人間がリングに向かってヤジを飛ばしている。普通の格闘技の観戦とは雰囲気が断然違い、皆殺気立っている風なのが特徴的だ。

「すごいな…」
「迫力あるだろ。異種格闘もあれば、プロレスだけって日もあるんだ。選手にもファイトマネーが出るから必死だぜ」

興奮気味に話ながら、大森はBARへ向かうとビールと簡単なツマミを注文した。北薗も同じようにビールを注文して、カウンターお勧めだというツマミを頼む。
それらを片手に観戦をしながらフロアー内を見渡すと、選手控えと書かれている部屋に人影を見つける。もうすぐ出番なのだろうか、小刻みに体を動かし、アップをしている最中だ。
普通ならばサラッと流してしまう光景だが、何故か北薗の視線はそこから離す事が出来なかった。理由のひとつに、幼げな背格好が印象的だったからだ。その人物はジャージ姿にスポーツタオルを被っているから顔までは見えない。だが、一般男性とは少し違う感じがする。
もっとも、北薗は自分の身長が高い為に普通体格の人も若干低めに見える事が多々あったから今回もその類なのだろうが、それでもその人物が気になって目が離せずにいると、大森に肩を叩かれ我にかえる。

「北川、お前はいくら賭ける?」
「それより、ゲームの説明がまだだ。教えてくれないとわからないよ」
「簡単だ、賭ければいいだけさ。後は向こうで試合してくれんのを見るだけ。勝ったら自然と受付で計算をしてくれて、後でまとめて金をくれるって寸法さ」

説明はいたって普通。
これといって特別なものではなかった。敢えて言うならば、公的なギャンブルか違法かの違いだけだ。細かい内容をもう少し聞きたい所だが、話さないという事はこれといって無いのかもしれないと北薗は思った。

「対戦表とかは無いのか?」
「名前だけのはチケット綴りの一番最後のページについてるだろ」

言われた通りチケット束の裏を見ると5戦分の選手名と、対戦記録が書かれていた。現在の対戦者は五分五分のようだ。見たところ体格もそう差は無い。

「これだけか…」
「詳しいものは受付で5千円で購入出来るけどな。後は上手いこと仲良くなってその辺のベテランに聞くのが一番だ」
「しかし声かけられそうにないな…」

北薗の言う通り、観客はそれぞれの世界に入り込んでいるようで、新参者が声をかけてどうこう出来る風ではなかった。

「まぁ、次の試合は、安全牌か大穴みたいだから、それで感覚掴んでおけばいいじゃないか?」
「安全牌ね」

またチケットの綴りをめくって次の試合の表を見る。そこには驚くべき数字が書かれていた。

「次の試合、仁科とAKって。23戦(17:6)−0戦(記録なし)って…!」
「ひどい組み方だよなー。まるで出来レースだけど、対戦相手はくじ引きで決めるんだから仕方ないよな」
「運てやつか…」
「賭け事にはありきよ。さて、俺はちょっと向こうでスタッフと話があるから楽しんでてくれよ」
「ああ、何かあったら呼ぶよ」

大森は近くの黒服に声をかけると、コソッと話をして端へと行ってしまった。


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