GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-2】

現場の事務所で簡単に受けた説明では、酒を飲めるBARもある隠れ闘技場があるとの事だった。どんな格闘技なのかはわからないが、隠れというだけあるので、少しアウトローなライブハウスみたいなものかと北薗は考えていた。まぁ、自分は直接関わらず端で観戦していればいいのだから、気楽なものだろう。

「北薗、ここだ」
「ここ…ですか?」

大森に案内されたのは古びたビルの間だった。普通ならば入らないような通路を指差す。大森は人目を気にしつつ、通路を入ると、北薗へ急ぐよう合図をする。小走りで通路へ駆け込むと、奥の扉に誰かが入っていくのが見えた。
後を追うように、奥へ行くと錆び付いた扉が現れた。表面からは、この先に生きている場所があるとは想像出来ないような雰囲気が漂う。

ギィー…

文字通りの錆び付いた音を立てながら扉を開けると、小さな受付があり、黒いスーツに身を包んだ男二人が立っている。中はどんなものかと覗き見ようと思ったが、すぐそこに黒いカーテンが引かれていたので見る事は出来なかった。

「どうも。森田です。今日は友人連れて来てます」
「そうか。バックは後で勝ち点計算に乗せるから」
「はい、よろしく。入場料は二人分払っておきます」

入場料という言葉に疑問を感じたが、今回は初めてという事もあり大森が払ってくれるならば、いいだろうと北薗は思う。

「そちらの友人も名前を記入して」
「はぁ…」

言われたままボールペンを手に取り、受付表に名前を記入しようとすると大森が口を挟んできた。

「そうだ北川! 俺タバコ買うの忘れたから1本くれよ」
「タバコ? 構わないけど…(いま北川と言った?)」
「あれ、北川も赤マル吸ってたんかぁ」
「(名前を変えろという事か!? やっぱり…俺の事は心配ないと言っていたが何かあるな)」

北薗はタバコをしまいながら、受付表に”北川“と名前を記入する。書き終わり、ボールペンを置くと引き換えに5枚綴りになっているチケットを渡された。
紙には、日付のみが手書きで書かれていて、後はローマ字と数字だけのみのシンプルなものだった。予測するに対戦番号か何かかと思われた。

「それじゃあ行こうか。ゲームの説明は中でするから」
「ああ、わかった」

大森がカーテンを開けて先に入る。続いてカーテンをくぐると、先は意外にも綺麗に整備された場所で、トイレやスタッフルームと扉が見えた。

「なぁ、おおも…いや、森田」
「なんだ北川」

わざとらしい名前の呼び方がむずがゆいが、それがルールだというなら仕方ない。

「何で俺まで名前を変えた?」
「正直言うと、ここでは名前なんか何でもいいんだけどな」
「ああ」
「俺らが入る前に、入っていった男を見たか?」
「あぁ、誰かいたな」
「多分、刑事だ」
「ええっ!?」

あまりにもびっくりしてしまったので大きな声を出してしまったが、自分でもまずいと感じて北薗は口を塞いだ。

「て言っても、ありゃガサ入れじゃねぇ。選手斡旋か何かだ」
「選手斡旋? あぁ、格闘のか」
「そうだ。選手を紹介するとバックマージンがもらえるんだよ。大方、ぶらついてる無職の若けぇのか、前科あるチンピラを連れてきてんじゃねぇのか?」
「へぇ(バックマージン…?)」

北薗は大森が話の中で口にした単語で気にかかった。“バックマージン”だ。
受付で、『バックは勝ち点計算に…』と言っていたから、多分友人紹介という事で北薗が来た事でも得しているのだろう。そう、それこそ入場料など簡単に元を取れるぐらいに。
改めてちょっとした話の中で人間性は知れるものだと北薗は悟った。


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