GLOW UP!

第1章 北薗崇【ギャンブル3-1】

ショッピングモール建築現場に入り2ヶ月が終わりに近づきそうな5月末の事。

「北薗!」
「あ、大森さん」

仕事も残す所あと2時間ちょっとという所、北薗と同じ会社で1年先輩の大森が事務所にやってきた。大森とは地元にいる時は深い付き合いが無かったが、俵がよく面倒を見ている存在という事もあり、普段からつるむ事が多くなっていた。

「今夜どうよ? キャバでも」
「あー…えと」

言葉を濁したのは、5月の連休に一度妻の元に帰り、身重の妻を労った為に懐が寂しかったからもあるし、俵の件で少し懲りている所があったからだ。

「懐具合か?」
「ええ、まぁ。身重の妻を残してきてしまっているんで…」

飲むのは嫌いではない。酒だけを飲むならば、家で発泡酒や缶チューハイを飲んでも構わない。しかし仲間や上司との付き合い上、断ってばかりもいられないので、付き合うようにはしていたけど、さすがに今回は先立つ物が無かった。

「そうかー。なら若大将行くか?」
「あ、そうですね。そこならばお付き合い出来ます」

若大将とは、駅とは反対側の繁華街にある居酒屋だ。リーズナブルな価格設定が駅を使うサラリーマンや建築現場にいる北菌らには救世主的存在で、よく利用していた。

「それじゃ、7時に駅前でな!」

そう大森が予定を決めた時だった。下請け会社の若い衆がひょこっと顔を出す。

「いまチラッと聞こえたんですが、若大将、昨日行ったら今日から2連休て貼り紙してありましたよ」
「なに!? マジか?」
「えぇ、何でも研修とかで」

それだけ伝えると若い衆は事務所から消えてしまった。

「どうするか…」
「そうですね(別に無理じゃなくていいんだけど)」
「あ…」
「どうしました?」

何かを思いついた大森は一言だけで固まり、考え込む。

「北菌ぉ…」
「はい」
「お前さ、ギャンブルやるのか?」
「ギャンブル? いや、まぁやったとしても、たまーにパチンコか、G1を電話投票ぐらいですね」
「じゃあ嫌いじゃないんだな。まぁ、あんまり大声じゃ言えないんだけどな」

大森はそう言うと事務所の扉を閉めて、内容を語り始めた。
大森の少し得意げな笑い方が妙に気になった。

+

仕事が終り、家に帰りザッと風呂に入り着替える。面倒くさくなるし、そのまま出かけてもいいのだが、所謂ガテン系といわれる男性は意外にも飲みに行く前に綺麗にしていかないと行きたく無いというタイプが多い。北薗らもそのクチだ。
約束の時間に駅前へ行くと、大森の姿が見えない。まだ来ていないのか辺りをキョロキョロしていると、後ろから声をかけられる。が、その姿はいつもの大森と雰囲気がまるで違っていて、帽子にサングラスという装備だった。

「大森さん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとな。顔割れたくないんだよ」
「はぁ…危ない場所なんですか? というか、俺は平気ですかね?」
「大丈夫だ。俺は高レート賭けたいからさ。あ、それとその場所で俺は森田って名前になってるからよろしく! 行くぞ」

何だか不安を煽るような大森の行動に一瞬足が怯んだが、行かないわけにもいかないので、北菌はついていく事にした。


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