WONDER WOLF WORLD

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  うつしよとまほろば  

今年もまた 桜が咲いた。

何故、年が巡り来る度に
人々は飽きもせず
たったひとときの美しさに
日々の全てを忘れ
その満開の下で
溺れる様に酒に酔い狂喜するのだろう?

風に巻かれ
洪水となりゆく その姿に
歓喜の声を上げるのだろう?

それはもしかしたら

皆、何処かで
それに気がついているからなのかも知れない


舞い散る花びらの無音にも似たざわめきに
付かぬウチに、その魂が揺さぶられているのだ



銀色のアスファルトの上を
春のくすんだ太陽を受けて花びらが
金に、銀に、小さな渦を巻くのを見て
何かを想い出しかけるのも全てそうなのだ

風が吹く度に
桜色の闇に呑まれて
私の心は
どこか別の場所を彷徨いはじめる


さくらさくら

この世とあの世を繋ぐモノよ。

時の間に浮き沈む世界に
連れて行ってはくれまいか。

また風が吹くあの時に。

胸騒ぎに襲われながら
虚空に舞い上がる私の魂の欠片を見た。


─麻保良と現世─
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