Wake an answer

第1章 葛葉麗一【ブラックナイト3-7】

「えっと、亀山さんの事務所で付き人のアルバイトをしている名目だけど、月に指定の住まいに住んで週に数回お付き合いをして50万から…。その先は歩合制。それって、言い方を変えれば“愛人”という事ですよね?」

萌木は麗一の言葉に眉をしかめる。少し強く言い過ぎただろうか。

「まぁ否定は出来ないよね。まずはここで第一判断。麗一君がそれを許諾してくれるのならば亀山さんと会って話をしてもらいたい。もし嫌ならば亀山さんとは会わずに帰ってくれていい。理由は僕が適当に話しておくから」
「だって…俺、男ですよ?」
「そういう趣味の人もいる。高校生ぐらいになるとわかるだろ?」
「自分の周りにはいないですけど…あ、もしかして孔雀町のオカマバーみたいな感じですか?」
「んー…別に女装はしなくてもいいんだけど。まぁ、しても構わないけど」

そういいながら萌木は麗一の全身を一通り目で追った。いやらしさは感じない。ただ、バイトをしているスーパーに来ていたバイヤーがバックヤードで商品を品定めしている視線と似ていると麗一は感じた。

「例えばの話として聞いてもらいたい。君はその、神様は信じないと言っていたけど、妖精、妖怪、天使や悪魔。そういったものの存在ってどう思う?」
「おとぎ話ですか? どう思うかと言ったら…そうですね。うーん…ゲームの中の話? かな」
「ふむ…だよな」
「え?」
「いや、まぁまぁ。リサーチのね、ひとつとして聞きたかったんだ」
「はぁ」
「さて、亀山さんの話だけど」
「具体的には亀山さんと何をすればいいんですか? 」
「そこの内容は詳しくは亀山さんに聞いてほしい。一般的なマニュアルなんて普通は無いし、仮にその契約が成り立ったとしたら民法90条「公序良俗」で犯罪になってしまうからね」

暗に先の“愛人”ということだと含めているようだ。

「じゃあどうすれば?」
「ブラックナイト独自の法に従ってもらうんだ。反則した場合は、これまたブラックナイトの法によって裁かれる」
「それって、日本の法律に則って無いんですよね?」
「うん。ズバリ全く関係ない。だけど、正直な所この施設だけで国を揺らがせる事も可能だし、本気になれば法律だってひっくり返せる」
「どういう事ですか?」
「それだけの人物がこの施設に関わっている…とだけで留めておきたい」

要するに政府要人や、その下の役人、更に警察関係者、まで出入りしているのだろう。だが、いくら“法律だって変えられる”とは言ってもなるべく公に出てはいけないような場所だ。だからこそ敢えて“それだけの人物”と言葉を濁したのは、ただの口封じではない。そういう細かなところまで気を配っておかなければ、普段の会話で何かの間違いで出さないようにする訓練なのだと麗一は踏んだ。

「……」
「まだ少し時間はある。考える余裕はあるよ」
「いえ、亀山さんに会った後に断る事は出来るんですよね?」
「うーん…本当は会う前に答えを出して欲しいんだけど」
「そっか。……なら会います」
「本当に!? …大丈夫?」

萌木は麗一の言葉に一瞬明るい顔を見せたが、すぐに心配そうな表情で気遣った。

「わからないです。でも俺、答えが欲しいんです」
「何の?」
「それもわからない。けど、何かわからない事が俺の身に起きている気がするんです。勘ですけど」
「勘ね」
「まぁ、俺の勘は8割が悪い事しか当たらないんですけどね」

うつむき加減にしていた顔を上げて儚く麗一は笑った。彼独特の暗さはあるものの美しい瞳と、薄く笑う口元に萌木は軽く心臓を掴まれたような気がする。今まで何人もの人を面接してきたが、ここまで気持ちを掴まれたのは初めてだった。

「きっと見つかると思うよ。それと麗一はこの世界でも、今後もっと広い世界でも生きていける気がする」
「それは勘ですか?」
「うん、当たる自信は無いけど経験で」
「ふふ萌木さんって面白い人ですね」
「よく言われる」

萌木は腕時計を見ると「それじゃあそろそろ移動しようか」と言って先に席を立った。そして先ほどドリンクを注文した電話で内線をかける。その姿を見た麗一も同じく席を立ち萌木の次の言葉を待った。


Copyright © SPACE AGE SODA/犬神博士&たろっち. All rights reserved