Wake an answer

第1章 葛葉麗一【矢坂医院2-3】

無論、一般常識…略して“普通”というが、病院内では規模に関わらず大抵が携帯電話は禁止なのではないかと思うが、そんなことは構わず矢坂は発信先の相手と話し始めた。

「もしもし? アタシ。はいはい、昨日はどーも。何よアレ。え? アレが何かって? ホラ、昨日の小僧の…」
「先生、麗一です」

麗一の言葉に一瞥する。

「あぁ、そう。その小僧。どういうつもりなの?」

矢坂は麗一の顔を見たまま話を続ける。何だかわざとからかうように「小僧」と言い続けているような気がしてならない。

「うん、うん、え?そう…アタシ驚いちゃった。診察した時点で、手紙の中身はだいたい想像ついたけどさぁ、まさかいきなりビッ…え? なに? お客? ちょっと都!」

麗一には全体像が全く見えない話は相手の都合により切られたようだ。矢坂はイラついたように軽く舌を打つと、携帯を無造作にポケットの中へ放り込んだ。

「お客と、長年付き合ってるアタシとどっちが大切だっつうのよ。……客か。アタシでもそうするわな」

重苦しい空気が流れる。
状況が飲み込めていない麗一と、多分状況をどう語ろうか悩んでいる矢坂の気持ちがぶつかり合っているからだ。それだけヤバい話なのだろうか、麗一の心に不安がよぎる。

「とにかく…アンタは今日は家へ帰りな」
「この封書は…。これから俺はどうすれば…」
「あー…その事が詳しくわかったら、アンタに連絡してあげる。ただ、ハッキリと言っておくけど、夕べあった事も見た事も、口外はしないこと。その封書の雰囲気を見れば、ガキじゃないんだからわかるでしょ?」
「先生さっき小僧って」
「揚げ足とるんじゃないの。とりあえずアンタが着ていたものは洗濯してあるから、さっさと着替えてお帰り。アタシは忙しいんだから」

まるで犬でも追い払うかのように、シッシッと麗一に向けて手を払うと、矢坂は奥の扉へと消えて行った。扉が閉まった音が聞こえた所で、鉛でも背負ったかのように重い体を起こして、ベッドから降りる。布キレ一枚のような病院着を脱ぎ、きちんと畳まれている自分の制服へと手を伸ばす。

「あれ…?これ…」

フと気にかかり、病院着を脱いだ自分の体を見回す。
彼の体のアチコチには、見慣れないアザや、表現するのが難しいワケのわからない変な痕が走っていた。


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