Wake an answer

第1章 葛葉麗一【はじまり1-1】

彼、名を葛葉麗一と言う。年齢は二十三歳になる。
あの場所に、麗一が出入りをし始めたのは、かれこれ五年も前の話になる。
いや、初めてその場所があると知ったのはその一年前になるから六年前といえた。

簡単に麗一の生い立ちから話しておくと、彼は養護施設で育った。
父親の記憶は無い。
母親の記憶は、かすか頭の片隅に残るもので、新緑が美しい場所を日傘で歩く姿を目で追ったものだった。
そんなものだから物心ついた時には施設にいて、麗一と同じ様な境遇の子供たちと一緒に育った。
ただ彼の場合少しだけ違うのは、年子の麗華という名の姉がいる事で、その姉というのが自分と同じ施設にはいないということだった。

他の施設のシステムがどんなものなのか彼には知らされていなかったし知る余地も無かったが、大抵兄弟がいる者は同じ様にその場所で暮らしていたのに、麗一だけは別々の場所だった。
それも、他の施設に預けられていたとかではなく、麗華だけは超が十個ぐらいつく金持ちの家に養子として預けられていた。
何でそんな状態になっていたのかという理由は、麗一は知らない。
施設にいる時、母親代わりだった養母さんは、規則上家族の事に関して絶対に口にはしなかったから、彼も敢えて首を突っ込まなかった。

だが一年に一度、麗一には直接会わなかったが、姉家族は施設に顔を出していた。
弟がいるという事で、援助金を渡しに来ていたらしい。養母さんは隠そうとしていたが、影から覗いて見てしまった自分そっくりの女の子とその家族は自分の関係者なのだと気がついた。僅か小学校低学年の頃。
応接間の椅子に座り、普段麗一達は口に出来ないジュースを優雅に飲む姿を見ると、『あぁ、俺はあの人と血はつながっているけど、違う人種なんだ』って風におのずとわかったし、理解せざるをえなかった。
麗華は子供の頃は体が弱く、また女の子という事もあって、子宝に恵まれなかった夫婦のもとへ養子に行った。
何故麗一だけ残されたかというのは、その家庭に養子は特別二人はいらなかったし、双子と言われるぐらい似ている麗華はその名の通り、華のように見目麗しかった。
施設に入る前に養子の話をもらっていた麗一達は、当初は二人一緒にという話が出ていたらしいが、麗一は里親の顔を見た途端泣き喚いて拒否をした。もうヒトツ、決め手になったのは勉強。五歳の時点ですでに小学校低学年のドリルに手をつけ始めていた麗華と違って、麗一はドリルのアチコチにいたずら書きをして遊んでいたのだ。冷静に考えればわずか4歳の子供が大人しくしているだけでも褒められていいはずなのだが、静かにドリルに向かう麗華と差がありすぎた。パーフェクトを望む里親候補は、麗華一人の引取りを強く望んだのだった。

だが、麗一とてまったくのバカというわけではない。
その後、中学の担任の後押しもあって、地元ではそこそこ成績の良い高校へは入れたし、高校に入ってからは、元来負けん気だけは強いから、成績は常にトップクラスだった。
それでも年齢的な物も含めて、麗一は高校生の頃には立派にグレていた。優等生の顔をしておきながら影では悪い事をやらかす。一番タチ悪いタイプ。
その当時の仲間内でリーダー格の男の名は、“田中丈一郎”という古臭いおじいちゃんみたいな名前の男。
遊び方が上手くてサラリと女を誘ってはデートしたりする姿が、麗一には憧れの対象だった。
教えられた通りにタバコを吸い、酒も、女も覚えていった。


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