それ故に、未来を受け止めるが如く 1

モクジススム
「悪ィ! 待ったか!?」
「いや、大丈夫」
「やっぱり朝、起こしてもらえばよかったよ」
「ゆうべ仕事遅かったんだろ? 開場には間に合うしいいじゃないか。行こうか」

先へ行くのを促がしたのは真田蓮爾。スラッとした体型と中性的な顔立ち。女性も放っておかないタイプだ。一方の遅刻をしてきたのは古谷辰巳。蓮爾とは正反対で男らしい顔立ちと体つき。腕の太さも倍はあるような大柄な男だ。
二人は小学校からの幼馴染で、高校を卒業して辰巳は社会人。そして蓮爾は大学生となった今でも仲が良く、何かとつるんで行動していた。

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二人が向かうのは、市民が利用する講堂で、地域のグループが発表会に使ったり、往年の歌手が営業に来たりするような、いたって普通の多目的ホールだ。
今日は出身高校の生徒達が模様するイベントに出向いた。午前九時に待ち合わせをし、ホールへと向かう。イベントが始まるのは午前十時半。特に座席の指定がされていないので、なるべく早く向かったのだった。辰巳の遅刻があったから、予定時間より十分ほど遅れたが。

「それで? 異動かもしれないのか?」
「うーん…多分な。ここからそう遠くはないけど…勤めて2年ちょいで室長補佐だぜ?」
「すごいじゃないか。でも、お前実家出ちゃって尚更寝坊癖どうするんだよ」
「はぁー。それ言わないでくれよー…いやこれでもまだ会社では遅刻はしてないんだぜ…っと電話だ」

ホールへ向かう途中に携帯電話がなり、受けたのは辰巳だった。
パンツのポケットからストラップで携帯電話を引っ張り出すと無機質な着信の音が響いた。

「もしもし? ちょ…どうした? もしもーし」

出てからすぐに切れてしまったらしく、不思議な面持ちで自分の携帯電話を眺める。

「なに?」
「わかんねぇ…。裕樹からなんだけど、聞き取れなかった」
「ふぅん…何かあったのか?」
「みたい。若葉にはいるみたいだけど」

若葉とはホールの名前。地元に根付いている者ならば、“若葉”とだけ言えばホールのことだとわかるぐらい有名だ。
木々の間を光が零れ抜ける公園の街路樹を抜け、ホールに隣接する広場を歩く。外観が確認出来る距離になった所で、周囲のただならぬざわつきに二人は気がついた。

「何か騒がしいな」
「ああ…保護者かもな」
「どうする? あん中抜けるか?」

辰巳は額に手をやり遠くを眺める仕草をする。
それに合わせて蓮爾は目を細めて遠くを見遣る。目が悪い彼らしい癖だ。

「ん…煩わしいな」
「そうだな。あ、じゃあ蓮爾。俺朝メシ食ってないから、向こうから回ってコンビニ寄ってくわ」
「寝坊したのが悪いんだろー」

冷ややかな目でイヤミをひとつ。
友達同士のソレだから、他愛も無いフザケっこだが。

「ワリィ、ワリィ。ほんの十分じゃん」
「ま、いいや。えーと…そしたらオレはあの混雑が避けて反対側から行くとするかな」
「うん、じゃあ連絡くれ」

さっきまで使っていて手にしたままの真っ赤な携帯電話を振って合図する。

「ああ。じゃあな」

それだけ言うと二人は背中を向けて、真反対へと歩き出した。
そう─。
まるでこの先の人生を分けるかのように。


たろっちさん初めての小説。
あらやだ恥ずかしい///
私も書けるんですよ。実は。
タイトルは犬さんが考えてくれました。この話を物語っているようでカッコイい!
モクジススム
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