◆輪〈サークル〉から逃げられない◆ ―短編―

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 ―1―  

最近…ここ一ヶ月くらい、ずっと「誰か」に後をつけられている。
気がするのではなく・本当に「誰か」が居るのだ。
が、正体はわからない。解っているのはどうやら男の様だと言う事位だ。
何というか、後をつけまわす その「誰か」は、
気持ちの悪い事に俺の行動を手に取る様に知っている様子なのだ。

実際、余り腹が立ったので、そいつがどこの誰か見極めてやろうと
急に後ろを振り返ってみたり・突然踵を返して自分が今来た道を猛スピードで
戻ったりしたが、そうする度に、丸で霞の如く姿を消してしまう。
そんな訳で結局の所、その正体は未だ全く掴めないままだ。
いわゆるストーカーって奴なんだろう。
ただ今のところ何を悪戯や嫌がらせをされる訳でもないので、
結局そいつを放置することにした。

…しかし・どうしてもそいつの存在を気にせざるを得ない出来事が一つあった。
実は俺は三日後に結婚式を控えているのだ。
調度一ヶ月位前に彼女の方からプロポーズを受けた。
大方俺同じように彼女の財産目当ての男が逆恨みして俺をつけまわしてるんだろう。
…そう…彼女は莫大な財産を持っていた。その上天涯孤独の身だった。
俺はそれを知っていて、彼女に近づいた。
無論・彼女の好みも・趣味も・全部彼女に合わせ…偶然と運命を装って、だ。
当然彼女は見事に俺に熱を上げた。
そして、調度一ヶ月前のコトだ。

全てをあげるから一緒にいて、と彼女は俺に哀願した。
だから俺を恨むのは全くの筋違い・お門違いもイイトコだ。
俺は俺の手で彼女の「全て」を勝ち取ったのである。
どうせストーカーをするなら彼女にしろって言うんだ。
そうして俺がちゃんと彼女の夫になって
彼女の財産をそっくり頂けるように手筈を整えてから
彼女を殺してしまってくれ。
財産管理は面倒だが、会計士を雇って税金対策を任せておいても
一生遊んで暮らせる程の金は存分にある。

だから正直、結婚式が待ち遠しくて仕方がない反面、
俺をつけ回す「誰か」の存在が、ちょっとした恐怖の化身として
俺の中に棲み付いてしまった。

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