◆アオノニゴウ◆ ―短編―

モドル | ススム | モクジ

 ―08:「目覚めの日」 ―  

最初、彼の耳に飛び込んできたのは、“声”だった。

やさしく、あたたかな…聞き覚えのある声…。
その声ともうヒトツの声がする。
会話の様だな、と感じたが、次第に最初の声が
“誰か”を一生懸命に呼んでいるんだと気がついた。

彼はそっと目を開ける。

…白い天井。明るい照明。
ああ、自分は仰向けに横たわっているんだな…と、認識した。
その時、自分の右脇に誰かの気配を感じて、
顔と目を少しだけそちらへ向けた。
見覚えのある、少年の様な面立ちが息を呑み、少し微笑んで、口を開く。

「…あお…?青!!」

―ア…オ…?青…?…色の事??

「青、俺だ、ソラだ。解るか?」
ソラ… 
ああ、そうだ、彼は、ワタシ産みの親であるセイの親友の

「ソラ…」
ソラは嬉しそうに頷く。心なしか目が潤んでいる様だった。
「博士、目を覚ましましたよ!」
「正しくは起動した、だろう。」博士は近くへ寄って来た。
この人も解る。是平博士。マスター、セイの師だ。
「早速で悪い気もするが状態を見たい。動けるか?」
彼はゆっくりと体を起こす。
腕…足…指先…五感、機能共にベストの状態だ。
「まぁ回路系統を繋ぎ直すだけだったからな。手間はかからなかったよ。
ただ人工皮膚は無いし…右目だけは…私の技術とココの少ない
材料と部品だけじゃちょっとどうにもならんかった。
ま、その代わりといっちゃなんだが
外部からの回路強制遮断防止シールドを仕込んでおいたよ。
後、頭部なんだが…普通の人工毛髪じゃなく、そんなプラグだらけに
しちまうなんて…一体セイは何を考えてそうしたんだか…。」
言われて見て始めて気がついた。右側の目の回路が左側に組み込まれ、
新しい機能がついていた。
髪も…長いと言う感覚よりはジャラジャラと重い。
何だか電子楽器とアンプを繋ぐ時に使用するプラグの様でもある。
何に使うかイマイチ解らない。
電子頭脳内での確認を済ませると、彼は頭を下げた・
「大丈夫です。問題はありません。有難う御座います。」
「まぁスキンヘッドのままじゃ他のP−No.key達と
区別がつかなくなるとイカン。少々派手な気がしなくも無いが…
そのままにしときなさい。」
彼は無言で頷く。
…その時…彼は思い出した。
…あの夜の主人の一連の奇妙な行動を。

ふぅ、と口から息を吐き出すと、今まで自分が寝ていた施術台に腰掛けた。

「まだメンテナンスが完璧じゃないかな?」
博士の言葉に彼は顔をあげて首を振る。
「いえ、メンテナンスは完璧です、博士。
ただ…私のマスター…セイの事が…」
その言葉にソラが身を乗り出し、彼の両腕を掴んだ。
「…セイは、一体何がどうなったんだ!?あの日何があった?教えてくれ、青。
そこで気がついた。
「もしかして“アオ”とは、私の事ですか?

ソラは、あ、と声を漏らすと本の少し彼から離れ、口を手で覆うと、下を向く。
代わりに博士が肩を竦めて言った。
「P−No.key.零号機じゃ呼び辛いってんで、
ソラがお前に名前をつけたのさ。
全く若いモンと言うかそのコの気が知れんよ。
わざわざ危険を冒して、お前さんを復活させようって
この7ヶ月走り回ってたって言うんだからな…。」

それだけ言うと博士はもぅお役御免のようだな、
と言い残し部屋を出て行ってしまった。


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