◆石の上◆ ―囀り石奇譚―

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  「序章」 ―明暗―  

その夜は満月の前にも関わらず、空は厚い雲に被われ闇をより一層深くしていた。
秋の気配を蹴散らして、丸で冬の様な冷たい風が、四つ辻できゅうきゅうと
逆巻いている。後陣の風が、轟々と音をさせ木々の葉を乱暴に撒き散らす。

…そんな想像しただけでも背筋の凍りそうな風景の中を…
女が1人 ふらふらと歩いてくる。

―暗イ…

―寒イ…

―怖イ…

女は呟き、すすり泣いていた。
今は真の闇である。外灯もナイ道だ。

この寒さの中を信じられないような薄着で…しかも裸足であった。
ガタガタと震えながらそれでも歩みを止めない。
丸で何かに追われるかの様に彼女は怯えきっている。

と、彼女の髪をフ、と掠めるモノがあって、彼女はそちらへ目をやった。
ソレは季節はずれの美しい大水青〈オオミズアオ〉であった。

柔らかな黄白色の光りが見える。

彼は、導かれる様に…そして彼女を導くように
その光りに向かって羽ばたいて行く…。
彼女は素直にその後を追った。

―ココ、ダヨ―

やさしい、包み込むような声がその光りから流れてくる。

―オイデ・ココヘ・オイデ―

その声は、彼女の胸に温かく染み込んだ。

そして彼女は目を閉じた。

―大丈夫…安心シテ・今ハオヤスミ…―

目を閉じたまま彼女は頷く。

―キット何トカシテアゲルカラ…―

全身の力が抜け、頽れていく彼女の体を、誰かがそっと抱え上げた。
声の主だ、と彼女は想った。
嗚呼、私はもぅ安心してイイんだわ。安堵の溜息をつくと、
自然と彼女の頬を涙が伝った。…その涙は、温かかった。

朦朧とする意識の中で彼女は問うた。

貴方は誰?

声の主は答えなかった。

代わりにこういった。

―闇がなければ…光りも…―

光りも?

貴方は光りでしょう?

声の主は微笑んでいた。

琥珀色の月が、一瞬雲間からその顔を覗かせた。
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