WONDER WOLF WORLD

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  悪 路  

坂道。
二股に分かれた坂道。
一方は登り。もう一方は下り。
この路に咲くのは杜若〈カキツバタ〉ですか?
それとも菖蒲〈アヤメ〉ですか?
何故暗闇の中でこんなにも
ハッキリとその姿を浮かべているのでしょう?

悪路…それは貴方を追い求めるコト 追いつめるコト
古い記憶に足を絡め取られ
現実を未だ見据えて居ないコト
知らない所で貴方の期待を裏切っているコト
我身・我ヶ心情に背くコト・嘘をつくコト 
貴方に罪を擦り付けるコト
驕り・憤怒・侮り・嫉妬・怠惰・色欲・暴食・偽り
渦を巻く焦燥が誰かを又引きずり込もうとしているのだ

誰もが私の醜さや汚れを含めた
この罪に気付くから踵を返して逃げ出すのだろう
飢えた狼が羊の喉元を狙うような
私の疚しさが内々から滲み出て
目や皮膚に 燐光の様に映し出されるから 
愛しい人達はみな逃げ出すのだろう

解っている、コレが地獄 
いわば私の罪を理解すべき瞬間なのだ


あいしている あいしている あいしている


このヒトコトを吐き出して抱きしめてくれるヒトが 
今世で本当に現れるのならば
私はどんなコトにでも手を染めてしまうだろう
けれどそんなに上手くコトは運ばない。
あんまりコトが上手く運ばないので
最近、罪に満ちたこの本能を隠すコトが
できなくなって来ている

私の体が、どんな悪事を働いてでも 
貴方を手に入れろ 手に入れろとざわめくので
心穏やかでいられない
私の手と口と貴方の肌と倒れる床が血に染まる幻想が
白日夢のように浮かんでは消えて
それが無性に哀しくて切なくて…

―…でも幸福で…―

それが怖くて恐ろしくて思わず
暗闇に逃げ込もうと目を閉じてしまう

そうしてソコに浮かぶ情景はいつでもこうなのだ。



坂道。
二股に分かれた坂道。
一方は登り。もう一方は下り。
この路に咲くのは杜若〈カキツバタ〉ですか?
それとも菖蒲〈アヤメ〉ですか?
何故暗闇の中でこんなにも
ハッキリとその姿を浮かべているのでしょう?

そう、コレは私の罪に対する罰。
どうせ罰を受けに逝く路が地獄なら
全てを舐め尽くしてから。
血の池地獄で溺れていずれ三途の川へ流され
もう一度現世に舞い戻る。
だから潔く、この坂道を下って逝きたいのだ。


◆ 1998.5◆
−浄土と獄界へ至る坂道−
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